民部省札

民部省札とは

民部省札は、明治2年（1869年）11月15日から翌年にかけて、明治政府の民部省によって発行された政府紙幣（不換紙幣）です。これは、明治政府が成立した直後に、江戸幕府が発行していた貨幣に代わるものとして発行された太政官札を補完する役割を担いました。

発行の背景

明治政府は、成立後すぐに太政官札（金札）を発行しました。しかし、これらの札は10両、5両、1両といった高額のものが中心で、1分や1朱といった小額の札はほとんど発行されませんでした。そのため、民間の日常生活での需要を満たすことができず、市場では小額の紙幣が不足する事態となりました。

この状況を打開するために、民部省は2分、1分、2朱、1朱の4種類の紙幣を、総額750万両分発行しました。これが民部省札です。民部省札は、太政官札と1両単位で交換可能とされました。ただし、これはあくまで新紙幣が流通するまでの措置であり、通用期間は5年と定められていました。

紙幣の特徴と問題点

民部省札は、太政官札と同様に旧来の藩札のデザインを踏襲していました。表面には双竜、裏面には鳳凰と竜馬の図柄が用いられ、その他に菊花紋章、桐紋、桐葉、瑞雲などが描かれています。しかし、太政官札と同様に、そのデザインが複雑でなかったため、偽造を誘発する原因の一つとなりました。特に、明治政府の基盤がまだ不安定であったこともあり、太政官札とともに各地で偽札が横行する事態となりました。

太政官札と比較すると、民部省札は券面の寸法がやや縦長でした。また、1両当たりの価値は同じでしたが、額面の種類が異なっていた点が特徴です。

新紙幣への移行と回収

明治4年（1871年）には新しい紙幣（明治通宝）が発行され、旧紙幣との交換が開始されました。明治6年（1873年）3月30日には金札交換公債証書条令が公布され、太政官札・民部省札は原則として年6分の利子が付いた公債と引き換えに回収されることとなりました。

その後、大蔵省は明治9年（1876年）6月30日に民部省札の通用・交換を停止するという通達を出しましたが、回収には時間がかかりました。最終的に、明治11年（1878年）9月30日を期限として、民部省札の通用・交換は完全に停止されました。残務処理を含めて、その回収は翌年の明治12年（1879年）までにほぼ完了しました。

まとめ

民部省札は、明治初期の混乱期における紙幣制度の過渡期を象徴する存在です。財政補完と小額紙幣の不足を解消するために発行されましたが、偽造問題や新紙幣の登場により、その役割を終えました。この紙幣の歴史は、明治政府が貨幣制度を確立していく過程における苦労と試行錯誤を物語っています。

参考文献

植村峻『紙幣肖像の近現代史』吉川弘文館、2015年6月。ISBN 978-4-64-203845-4。

関連項目

紙幣整理
* 新貨条例

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