水なす

水茄子（みずなす）

水茄子は、ナス科ナス属の植物で、特に大阪府泉州地域で栽培されている特産品です。泉州地域で作られるものは「泉州水なす」と呼ばれ、地域団体商標にも登録されています。一般的なナスと比べて丸みを帯びた形状をしており、水分を豊富に含んでいるのが特徴です。

概要

水茄子の果実は、下膨れの電球のような形をしており、丸みを帯びています。名前の由来にもなっているように、果実を絞ると水が滴るほど水分を多く含んでいます。通常、ナスはアクが強く生食には適さないとされますが、水茄子はアクが少なく、ほんのりとした甘みがあり、皮も柔らかいため生で食べることができます。

最も一般的な食べ方は漬物で、特に浅漬けやぬか漬けがよく知られています。泉州地域では、水茄子をぬか床に一晩から二晩漬けたものを「浅漬け」と呼んでいます。浅漬け以外にも、炒め物、煮物、パスタの具、天ぷらなど、様々な料理に活用できます。

歴史

水茄子のルーツは、室町時代の書物『庭訓往来』に記載されている「澤茄子」であると考えられています。江戸時代には泉州地域で栽培されていたという記録があります。現在では日本各地で栽培されていますが、特に大阪府の泉州地域での栽培が盛んで、「泉州水なす」として全国的に知られています。

泉州水なすは、もともと巾着のような形をしていましたが、現在栽培されているものは小ぶりの長丸型が主流です。かつては農家の自家用として栽培されていましたが、水茄子の浅漬けの美味しさが評判を呼び、全国的にその名が広まりました。昔は、農家が田んぼの畦などに植え、夏の暑い時期の農作業中に喉を潤すために食されていたそうです。

品種

水茄子には多くの品種があり、泉州地域でも地区によって栽培されている品種が異なります。例えば、大阪府貝塚市で栽培されている「馬場なす」は、長ナスに近い形状をしており、「幻の水なす」とも呼ばれ、市場に出回ることが少ない希少な品種です。同じく貝塚市の「澤なす」は、「水なすの原種」とされ、現在では泉州地域でも栽培している農家はほとんどいません。

水茄子の歴史に関する記述

日本におけるナスの最初の記録は、東大寺正倉院文書にあり、天平勝宝2年（750年）にナスが宮中に献上され、食されたという記述です。『延喜式』には、内膳司が管理する畑でナスが栽培されていたことや、ナスの漬物のレシピが残されており、平安時代の天皇や後宮の女性たちが日常的にナスを食べていたことがわかります。

室町時代の『庭訓往来』には、澤茄子に「みつなす」という読み方が記されており、和泉国日根郡澤村（現在の貝塚市澤）が水茄子の発祥の地であるという説が有力視されています。一方で、大阪府の公式ホームページでは、同郡上之郷村（現在の泉佐野市上之郷）を発祥の地として紹介しています。『異制庭訓往来』には、ナスとは別に桃や李と並んで水茄子が登場しており、生で食べられるナスとして、果物に近い扱いを受けていたことが伺えます。

本格的な栽培が始まったのは、ナスの栽培技術が発展した江戸時代初期と考えられています。当時は、ほぼ地元で消費される野菜として、農作業の合間に食べられていました。水茄子の主な栽培地である泉佐野市や貝塚市は、水はけの良い地質であり、農業用水を確保するために溜池が点在していますが、海に近いため地下水に塩分が混じります。このような環境に加え、温暖な気候が、水茄子が水分を大量に蓄えるように適応した要因と考えられています。水茄子は畑の隅に植えられ、農作業中の熱中症予防のために生で食べられたり、古漬けを塩抜きして、泉佐野漁港で水揚げされる安価な小エビ（えびじゃこ）と炊いた泉州の伝統的な惣菜「じゃこごうこ」として食べられていました。この「じゃこごうこ」は、郷土料理の保存を目的に、泉南地域の給食センターが小学校給食のメニューに取り入れています。

運送技術が発展した昭和初期には、販路拡大のためにデパートに並びましたが、熟しても緑色の斑点が残ることや、傷がつきやすく、漬物にすると色が変わりやすいことから、見た目が敬遠されました。現在広く流通しているのは、戦後に開発された、本来の水茄子よりもやや細長く、全体が紫色になる「絹茄子」と呼ばれる系統のものです。

栽培方法

水茄子の栽培には、河川に近い水田など、保水性の良い畑が適していると言われています。大阪府泉州地域は温暖で降雨量が多い気候であり、そこで栽培される水茄子は、長い年月をかけて泉州で作られた固有品種です。外見を良くする品種改良だけでなく、早期出荷を目的としたハウス栽培や、果実に傷がつかないように葉を取り除くなどの工夫が行われています。なにわ伝統野菜第一号の称号を授与されたこともあり、産地以外では高級野菜というイメージが強いですが、産地では「なす」といえば水茄子のことを指し、一般的に栽培されています。

種を播いて発芽させた後、ビニールハウスで40日ほど育てて幼苗を作ります。露地栽培の場合は、堆肥などの有機肥料を混ぜ込み、根がまっすぐ伸びるように深く耕しておきます。本葉が3、4枚になったら植え付け時期で、4月頃に高さ20センチメートルほどの畝に苗木を植えます。植え付け後、苗の成長に合わせて支柱を立て、最初の花が咲いたら主枝と側枝を2本残して3本仕立てに整えます。追肥は月に2回程度行い、乾燥を防ぐために藁などでマルチングをすると良いでしょう。ナスの花は、中央の雌しべが雄しべよりも長く出ているのが良い状態で、雌しべが短くて見えない場合は肥料不足の状態です。水やりは難しく、栽培農家の経験が重要になります。例えば、夏場の水やりは晴れた日が3日続いた後に行いますが、日中の暑い時間帯に水やりをすると、畝に溜まった水が熱くなり苗木に悪影響を及ぼすため、日没後に行う農家もあります。

収穫は夏から秋にかけて行われます。1本の苗木から130個ほどの果実が収穫でき、早いものでは5月から出荷が始まります。水茄子の果実は非常にデリケートで、葉が風で揺れて果実に触れただけでも傷がつき、硬くなってしまいます。そのため、果実の周りの葉を取り除く作業を行い、葉が触れないようにしたり、太陽光が均等に当たるようにしたりします。風の強い日には、畑を防風ネットで覆い、葉が揺れるのを防ぎます。露地栽培の収穫は、6月から9月にかけて最盛期を迎えます。この時期に、翌年の苗作りに使う種を採取するため、形の良い果実に目印をつけて完熟させます。収穫された果実は、傷がつかないように発泡スチロール製のシートを敷いた段ボール箱に詰められ、主に関西地方の市場を中心に出荷されます。種を取る場合は、畑で実を完熟させた後、さらに1週間ほど追熟させます。

もう一度検索