水上警察

水上警察

水上警察とは、河川、湖、港湾といった内水域や、沿岸部で行われる警察活動、またはその任務を担う組織の総称です。国によっては沿岸警備隊が海上における広範な任務を担っている場合があり、その場合は警察としての水上活動は内水域を中心に行われることが多いですが、具体的な活動範囲や業務内容は、その国の法制度や時代背景によって多様な形態をとっています。

活動概要

水上警察の主要な活動は多岐にわたります。例えば、

犯罪の防止・捜査: 密輸や密漁といった水上での違法行為を阻止し、関連する事件の捜査を行います。
水上交通の管理: 船舶の安全な航行を確保し、水上における交通秩序を維持します。
救助活動: 水難事故や災害発生時における人命救助や捜索活動を実施します。
警備・検査: 主要な水域や施設周辺の警備を行い、不審な船舶に対する立ち入り検査などを実施します。

これらの任務を遂行するため、水上警察は様々な種類の船舶を運用します。歴史的には手漕ぎの通船や小型の蒸気船、発動機船などが使われてきましたが、第一次世界大戦後には技術の発達によりモーターボートが普及し始め、現代では小型高速艇が世界各国で広く利用されています。活動にあたっては、税関、出入国管理当局、沿岸警備隊といった関連機関との密接な連携が不可欠です。

各国の水上警察

水上警察の体制や役割は国によって大きく異なります。

日本

日本の水上警察の業務内容や活動範囲は、時代によって変遷してきました。例えば、明治時代の東京警視本署の巡邏船は、船舶や橋梁の警備、停泊船の調査、遭難船の救助、密貿易の取り締まり、船火事の消火活動など、非常に広範な任務を担っていました。しかし、第二次世界大戦後、海上における警備救難業務の多くは海上保安庁に移管され、消防艇による消火活動などは地方自治体の消防組織が担うようになりました。

現在の日本の警察における警察用船舶の運用は、地域警察活動の一部と位置づけられています。主に、水上における事件や事故が多い水域を管轄する警察署（例：水上警察署）に船舶が配置され、担当水域のパトロールを行います。大規模なものでも航行区域は海岸から20海里までの沿海区域に限定されています。海上における海上保安庁との担当区分は、一般的に河川や湖は警察、港湾区域外は海上保安庁、港湾区域内は両者が協議して決定しますが、陸地から目視可能な範囲の海上は警察が担当することが多いとされています。

警察用船舶の乗員は、船艇の操縦に特化した専門職員が主ですが、長年の勤務を経て警察官に任用される者や、逆に船好きが高じて船艇職員に配置換えされる警察官もいます。実際の出動時には、専門職員に加え、任務に必要な警察官が搭乗します。現場の状況に応じて使用する船舶は変更されるため、乗員全員がどの船にも対応できるよう訓練を積んでいます。

アメリカ合衆国

アメリカでは、広範な海上法執行は沿岸警備隊の役割とされており、警察の舟艇部門は主に河川や港湾における治安維持を任務としています。多くの場合、地域警察組織内の外勤部門に設置されています。

例えば、ニューヨーク市警察（NYPD）には、特殊作戦部隷下に港湾隊（Harbor Unit）が置かれ、ニューヨーク湾内の港湾水域やハドソン川、イーストリバーなど市内水域を管轄しています。港湾隊の任務には、水難救助、事故対応、テロ対策などが含まれます。また、港湾隊内には潜水隊（SCUBA Team）も編成されており、人命救助や水中での捜索活動、テロ対策のための潜水任務を行っています。

イギリス

イギリスにおける水上警察の歴史は古く、1798年にはテムズ川で警戒・警備にあたる組織が設立され、1800年には法律によって正式な河川警察（River Police）として発足しました。これはイギリスの警察組織の中でも最初期の一つとされています。当初、統一的な首都警察の創設には抵抗がありましたが、1829年にロンドン警視庁が設立されると、1839年には河川警察もその傘下に入りました。

現在、管内に河川を持つ警察は、その水域のパトロールや水路の保全を担当しています。ただし、港やドックなどの施設がある場合は、別の特別警察が管轄することもあります。例えば、テムズ川においては、ティルブリー港はティルブリー港湾警察が管轄しますが、波止場や倉庫のある河川本体は警視庁の海上警察隊（Marine Policing Unit）の管轄であり、そこから河口にかけてはケントおよびエセックスの地方警察が河川警察を担当しています。

河川を担当する警察官は、河川管理当局が定めた規則の執行責任も負い、不審な船舶に乗り込んで検査する権限を持っています。また、遺体や紛失物の回収などのために潜水班を編成している部署もあります。

ドイツ

ドイツでは、各州警察に水上警察（Wasserschutzpolizei, WSP）が設置されており、主に内水域での法執行にあたっています。例えばベルリン州警察では、広域警備交通警察などを管轄する部署の中に水上警察が置かれています。

一方、連邦政府の警察組織である連邦警察にも海上部隊（Direktionsbereich Bundespolizei See）が存在します。この部隊は、連邦交通・デジタルインフラ省や連邦財務省などの関連部局とともに、連邦沿岸警備隊（Küstenwache des Bundes）を構成する要素となっており、内水域に加えて領海や公海上での法執行も担当しています。

その他の国・地域

アジアやその他の地域にも水上警察やそれに類する組織が存在します。例えば、台湾ではかつて水上警察局がありましたが、海上警察機構の再編により現在は沿岸警備隊に相当する海巡署に統合されています。インドネシア、タイ、香港などにもそれぞれ国家警察内の海上部隊や水上警察部門が設置されており、その地域の特性に応じた水域での治安維持活動を行っています。マケドニアでは国境地帯の湖水パトロールを行う部隊が軍の下部組織として存在します。

水上警察は、それぞれの国や地域の地理的特性や法体系に応じて多様な形で存在し、水上における安全と秩序維持のために重要な役割を果たしています。

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