水尻池

鳥取市水尻池：歴史と自然が織りなす潟湖の物語

鳥取県鳥取市に位置する水尻池は、周囲約3km、水深1～3mの浅い池です。かつては海岸線の入り江でしたが、砂丘の発達により海と隔てられ、潟湖となりました。その歴史は古く、約6000年前の縄文海進以降に形成されたと推定されています。

干拓と変遷：漁村から水田へ、そして再び池へ

大正から昭和にかけて、水尻池は干拓事業によって水田化されました。夏は水田、冬は池という季節的な変化を繰り返す「季節的潟湖」となり、コメ増産を目指したこの事業は、地元住民の漁業補償と労働力提供によって進められました。しかし、砂浜の排水路の閉塞や排水ポンプの維持費、湿田での重労働など、多くの課題を抱えていました。

昭和後期、国の減反政策により稲作が縮小。排水ポンプの故障を機に、1981年には稲作が完全に中止され、水尻池は通年池として復活しました。その後は養鯉や淡水真珠養殖などが試みられましたが、成功とは言い難く、現在は自然豊かな池として多くの動植物が生息する環境となっています。

豊かな生態系：渡り鳥の越冬地としての重要性

水尻池は、特に秋から冬にかけて多くの水鳥の越冬地となっています。マガモ、オナガガモ、ヒドリガモなどのカモ類が数多く飛来し、オオハクチョウの越冬地の南限としても知られています。かつては、稲作によって湖底に残された稲穂や草を餌としていたと考えられていますが、稲作の中止に伴い、餌環境の変化により、オオハクチョウの飛来数は減少傾向にあります。

サギ類やカンムリカイツブリ、カワウなども観察され、近年はマガンやヒシクイなども確認されています。荒天時には、ウミネコなどの海鳥も飛来します。西に3kmほど離れた日光地区の池も同様の役割を果たしており、鳥取市における水鳥の重要な生息地となっています。

歴史的・考古学的価値：古代からの人の営み

水尻池周辺には、古代から人々が生活していた痕跡が残されています。池の南東側には6世紀頃の古墳（沢見塚古墳）があり、西岸には同時代の奥沢見横穴群遺跡があります。延喜式神名帳に記載されている板井神社もこの地域に位置し、古くから信仰の場として機能していたことが伺えます。

また、鳥取平野と倉吉平野を結ぶ伯耆街道は水尻池の北岸を通っており、かつては母木坂越えの難所を回避するための渡し船が運航されていました。周辺集落は、古くから水尻池での漁業を営み、生活の糧としてきました。戦国時代には、大崎城が築かれ、尼子氏、毛利氏、豊臣秀吉らによる争いの舞台となりました。

水質と植生：環境の変化と課題

通年池となったことで、コイやフナ、オオタニシが増加。ヨシやマコモなどの挺水植物、そしてヒシが繁茂するようになりました。ヒシの実は食用になりますが、採取は労力に見合うだけの収入には繋がりませんでした。水質については、流入河川がないため、家庭排水などが影響していると考えられています。富栄養化による水質悪化への懸念があり、現在も水質改善に向けた取り組みが続けられています。

まとめ：未来への継承

水尻池は、その歴史的背景、多様な動植物、そして美しい景観など、多くの魅力を兼ね備えています。しかし、環境変化への対応や、持続可能な保全策の検討が必要不可欠です。歴史と自然が織りなすこの貴重な空間を未来へ繋いでいくために、継続的な観察と研究、そして地域住民による保全活動が重要です。

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