水谷駿一

概要

水谷駿一（みずたにしゅんいち、1894年 - 1970年）は、日本の近代造園史において重要な足跡を残した造園家です。官庁の造園技師としてそのキャリアを築き、特に長崎県や東京都における公園緑地事業の推進に多大な貢献をしました。名古屋市で生まれ、東京で育ちました。

経歴と主な業績

修学と初期のキャリア

1914年（大正3年）、水谷は東京府立園芸学校を卒業後、鹿児島高等農林学校（現在の鹿児島大学農学部）に進学しました。1917年に同校を卒業すると、指導教授の推薦に加え、当時の林学者であり造園家でもあった原煕の推挙もあり、同年には明治神宮造営局に奉職する機会を得ました。

長崎での活動

1920年（大正9年）に旧都市計画法が施行されると、水谷は長崎県に赴任しました。後に造園行政を主導する田村剛による計画が実施される以前から、長崎県内の温泉公園や長崎市の都市公園の計画および造成に深く関わりました。さらに、長崎市の森林公園では造林施業を成功させるなど、地域の緑化推進に貢献しました。

関東大震災後の東京での復興事業

長崎での在任期間が約3年を迎えた頃、1923年に関東大震災が発生します。この未曽有の災害を受け、水谷は東京へと戻りました。1924年には東京市復興総務部に勤務。その後、1927年（昭和2年）には内務省復興局建築部公園課へと移籍します。ここでは、公園課長の折下吉延のもと、東京および横浜の主要な街路樹や苗床の管理運営、風致地区の指定計画策定、そして浜町公園の築造事業などに従事し、震災からの都市復興における緑地の整備に尽力しました。

東京府での貢献

1929年に復興局が廃止されると、水谷は内務省復興事務局に移り、残務処理を完了させました。そして1932年には東京府土木部へと移ります。東京府技師として、当時内務省の主要な技師であった横山信二、北村徳太郎、太田謙吉らや、事務官の高橋登一、さらに東京市の公園課長であった井下清といった関係者と密接に連携しました。初期には風致地区行政とその区域内における施設の築造、東京府内の各風致協会の設立に専念し、顕著な業績を挙げました。

1933年からは東京緑地計画協議会の幹事として、東京の緑地計画策定と観光保勝事業に専従するようになります。約2年間の調査を経て、1935年にはこれらの計画に関する調査をほぼ完了させました。この調査に基づき、翌1936年には東京府観光協会を設立するに至ります。この時期に水谷らが策定した景園地計画とその施設配置、行楽道路の設定などは、今日の東京都における自然公園の体系の根幹をなすものとなっています。

1939年には、東京府が計画した紀元2600年記念事業における大規模な緑地造成、いわゆる「6大緑地」の設立プロジェクトに、内務省の技術陣とともに参画し、その実現に向けて尽力しました。東京府議会はこの壮大な計画に対し、2,150万円という当時としては巨額の予算を可決しました。そして1940年、砧緑地を含む5箇所、合計約637ヘクタールに及ぶ大緑地が都市計画として決定されました。しかし、これらの緑地は戦時中には防空緑地へと性格を変え、戦後にはその大部分が農地解放によって農地化され、その後はスプロール現象による宅地化が進み、当初の計画通りの緑地として維持されることが難しくなりました。

戦後の活動と晩年

戦後の一時期、水谷は特別調達庁大阪支所に勤務し、大阪の服部緑地などの整備にも携わりました。しかし、1949年には官職を退き、第一線から身を引きました。その後、1970年に76歳で生涯を終えました。

水谷駿一は、明治から昭和にかけての激動期において、都市計画と造園技術の分野で官庁技師として多岐にわたる重要な事業に貢献しました。特に、長崎での初期の造園活動、関東大震災後の首都復興における緑地の整備、そして戦前の東京における広域的な緑地計画や自然公園の基礎づくりにおける功績は、日本の都市景観の形成と緑地行政の発展において特筆されるべきものです。

参考文献

佐藤昌著『日本公園緑地発達史』
『景園』第1号（昭和11年9月刊）

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