水路部 (日本海軍)

旧日本海軍における水路部の詳細解説

水路部とは、旧日本海軍において、海図の作成、海洋測量、海象・気象観測、天体観測などを担当した組織です。その歴史は、明治初期の海軍創設期にまで遡り、日本の近代化と海軍の発展に大きく貢献しました。現在、これらの業務は海上保安庁海洋情報部によって引き継がれています。

水路部創設以前

水路部の歴史は、長崎海軍伝習所の第一期伝習生であった小野友五郎が、安政2年（1855年）から天測と測量術を学んだことに始まります。咸臨丸の太平洋横断時には、航海と測量士官として乗船し、経緯度を測定しました。さらに、文久元年（1861年）の小笠原方面開拓では、咸臨丸船長として測量を行い、これが日本の水路事業の端緒となりました。

明治2年（1869年）7月に兵部省が発足すると、11月に兵部大丞の川村純義は、柳楢悦と伊藤雋吉を兵部省御用掛に任命し、水路事業を進めるよう命じました。明治3年（1870年）5月には、両名が「第一丁卯艦」に乗艦し、イギリス海軍測量船「シルビア号」と協力して、本州南岸、志摩的矢、紀州尾鷲泊地、瀬戸内海塩飽諸島、備讃瀬戸方面の測量を行いました。明治4年（1871年）2月には、柳が「春日艦」の艦長となり、「シルビア号」と共に北海道沿岸の測量を実施し、伊藤もこれに参加しました。

水路局の設立

明治4年7月28日（1871年9月12日）、兵部省は陸軍部と海軍部に分割され、海軍部には秘史局、軍務局、造船局、会計局とともに「水路局」が設置されました。これが、水路部創立の起源とされています。また、同年9月8日（1871年10月21日）には、海軍部に「水路局」が正式に設けられました。水路局の所管事業は、水路測量、浮標、立標、灯台に関するものと定められ、その下に記注庶務掛と会計勘査掛の二つの掛が設けられました。初期の定員は少将1名、大佐1名、少佐2名でしたが、実際には北海道測量を行っていた柳少佐以下の人員が充てられました。明治5年2月28日（1872年4月5日）に海軍省が設置されると、「水路局」はそのまま海軍省に引き継がれました。

水路寮への移行

明治5年10月22日（1872年11月22日）に、「水路局」は廃止され、海軍卿直轄の「水路寮」が設置されました。水路寮は文官組織で、その業務は海路測量、水路嚮導監督、灯台浮標の建築・補修・配置などを司ると定められました。

水路局の再設置と組織の拡充

1876年（明治9年）8月31日、海軍省は事務、会計、主船、水路、医務、兵器の6局に分けられ、「水路局」は再び武官組織となりました。同年の9月1日には、水路局の事務掌程が定められ、業務は海河の測量、海図の調製、水路誌の編集、測量に関する諸具の管掌となりました。局内には、庶務課、測量課、製図課、計算課の4課が設置され、1879年には事務の一元化のため「整什課」が新設されました。1882年には、海図と水路書誌の編集発行の一元化を図るため、製図課を廃止して図誌課を新設しました。1883年には、測量課を廃止し、量地課と観象課が設置され、水路局の業務は海図の調製、水路誌の編集、水路に関する事件の報告、測器・海図・水路書誌の管理、観象台の管轄となりました。

海軍水路部と水路部へ

1885年（明治18年）12月に内閣制度が発足すると、「水路局」は海軍省の独立庁となり、1886年（明治19年）から「海軍水路部」と呼称されました。1888年（明治21年）には、「海軍水路部」が廃止され、新たに「水路部」が設置されました。その後、水路部は海軍参謀本部、海軍軍令部を経て、再び海軍省の管轄下に戻りました。1920年（大正9年）には、組織が改編され、第1課（図誌）、第2課（測量）、第3課（海図）、第4課（航海年表）、会計課が設置されました。

水路部の業務と組織の変遷

1920年（大正9年）に制定された「水路部令」により、水路部の所掌事項は、水路の測量、兵要海象の観測、水路図誌・航空図誌の調製・保管・供給、航海・航空保安に関する事項と定められました。その後、1922年には第5課（気象）、1938年には総務課、1939年には上海航路部が設置されました。太平洋戦争中には、南方海軍航路部も設置されましたが、終戦とともに廃止されました。1941年には、組織が大幅に改編され、総務部、会計部、第1部、第2部、第3部、修技所が設置されました。

水路部の終焉とその後

1945年（昭和20年）の終戦により海軍省は廃止され、水路部は運輸省に移管され、運輸省「水路部」となりました。その業務は、現在の海上保安庁海洋情報部へと引き継がれています。

水路部の庁舎

水路部は、その歴史の中で何度も庁舎を移転しています。初期は築地や芝にあった海軍関連の施設を転々とし、1894年には御成門の旧海軍軍医学校跡地に移転しました。1910年には築地に新庁舎を建設しましたが、1923年の関東大震災で焼失し、その後再建されました。1945年の東京大空襲でも大部分が焼失しています。

水路部の歴代部長

水路部の歴代部長には、柳楢悦、肝付兼行、松本和、中尾雄、伊藤乙次郎、川島令次郎、江口麟六、上村経吉、釜屋六郎、布目満造、内田虎三郎、植村信男、米村末喜、植村茂夫、小野弥一、太田垣富三郎、小池四郎、小林仁、副島大助、阿部嘉輔、木村進などが名を連ねています。

水路部は、日本の海洋における安全と発展に不可欠な役割を果たし、その歴史と遺産は、現代の海上保安庁海洋情報部にしっかりと受け継がれています。

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