水野忠幹 (紀伊新宮藩主)

水野忠幹：謹厳実直な藩主の生涯

水野忠幹は、紀伊新宮藩（紀州藩附家老）の第10代藩主として、激動の幕末から明治維新へと至る時代を生き抜いた人物です。天保9年（1838年）、紀伊新宮藩第9代藩主・水野忠央の長男として誕生しました。

父・忠央は策謀家で専制的な性格でしたが、忠幹は正反対の性格でした。謹厳実直で、活発かつ度量の広い人物として知られ、周囲から厚い信頼を集めました。嘉永5年（1852年）、諸大夫に任命され、父の藩政にも参画。しかし、万延元年（1860年）、桜田門外の変後の政治的混乱の中、父は失脚し、強制隠居を余儀なくされました。その翌日に忠幹は家督を継ぎ、従五位下・大炊頭に叙任され、紀州藩主・徳川茂承を補佐する附家老となりました。

慶応2年（1866年）、第二次長州征伐では、幕府軍の先鋒として活躍しました。各地で幕府軍が敗北する中、忠幹率いる軍勢は安芸国佐伯郡大野村（現在の広島県廿日市市）まで進撃するという大戦果を挙げました。幕府軍の撤退時には殿軍を務め、その武勇は長州藩兵をも震え上がらせ、「鬼水野」の異名をとるほどでした。

鳥羽・伏見の戦い後、旧幕府軍の敗残兵を藩内に受け入れた紀州藩は新政府から疑いをかけられます。忠幹は弁明のため上洛し、「3ヶ条の弁明」を提出しました。維新政府は、同年1月24日、忠幹を3万5,000石の大名として認め、新宮藩の立藩を許可しました。明治2年（1869年）の版籍奉還により新宮藩知事に任命されますが、明治4年（1871年）の廃藩置県で免官となります。わずか数年で藩は消滅したのです。

その後、東京府に移住。明治17年（1884年）、華族令により男爵に叙爵され、錦鶏間祗候に任ぜられました。そして、明治35年（1902年）、神奈川県鎌倉市で63歳で生涯を閉じました。法号は真徳院殿忠幹日現大居士。墓所は神奈川県鎌倉市の高松寺と和歌山県新宮市の水野家墓所です。

忠幹には多くの男子がいましたが、長男の忠宜は八甲田雪中行軍遭難事件で亡くなり、他の息子たちも多くが他家に養子に出されていました。そのため、当時4歳だった八男・重吉が家督を継ぐこととなりました。

水野忠幹の生涯は、激動の時代を生きた藩主の生き様を伝える貴重な歴史資料となっています。謹厳実直な人柄、卓越した軍事手腕、そして明治維新への対応など、彼の行動は後世に大きな影響を与え続けています。彼の功績は、単なる藩主としての役割を超え、日本の近代化への移行期における重要な人物像を示していると言えるでしょう。

系譜

父: 水野忠央
正室: 八重（温玉院、水野忠邦の娘）
継室: 釭（みち、水野忠精養女）
継々室: 釥子（しょうこ）

男子

水野忠宜（長男）
水野直（五男）
片桐貞央（六男）
水野忠武（七男）
水野重吉（八男）

女子

待姫
常
富子
千代子

養女

悦

参考文献

霞会館華族家系大成編輯委員会編『平成新修旧華族家系大成』下巻、霞会館、1996年
工藤寛正編『江戸時代全大名家事典』東京堂出版、2008年
水野八十郎編『水野家系譜』水野八十郎、1913年
安岡昭男編『幕末維新大人名事典』下巻、新人物往来社、2010年

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