永明体

永明体（えいめいたい）とは

永明体は、中国南北朝時代の南朝斉、武帝蕭賾（ぶてい しょうさく）の永明年間（483年 - 493年）に流行した詩体です。この時代、武帝の次男である竟陵王蕭子良（きょうりょうおう しょうしりょう）の邸宅に集まった文人たち、いわゆる「竟陵八友」が中心となって創作活動を行いました。中でも、沈約（しんやく）・謝朓（しゃちょう）・王融（おうゆう）らは、永明体の確立に大きく貢献した人物として知られています。

永明体の特徴

永明体の最大の特徴は、詩の形式や韻律の美しさを自覚的に追求した点にあります。それ以前の東晋時代に流行した、老荘思想に基づく難解な言葉を用いた「玄言詩（げんげんし）」の傾向から脱却し、高雅で洗練された詩風を確立しました。特に、韻律の規則として沈約が提唱したとされる「四声八病説（しせいはちびょうせつ）」は、後の時代の詩作に大きな影響を与えました。

四声八病説は、声調（四声）と、避けるべき音の重複などの規則（八病）を定めたもので、時代が下るにつれて実際の創作に適応するように整備・簡略化され、唐代に完成した近体詩の韻律である「平仄律（ひょうそくりつ）」の成立へと結実しました。平仄律は、詩の各句における音の高低のパターンを定めるもので、近体詩の音楽的な美しさを生み出す上で不可欠な要素となっています。

また、詩型の面でも、それまでの長編の詩に代わり、近体詩の詩型である絶句・律詩の原型とも言える、4句・8句の短い詩型が多く制作されたことも特徴的です。これらの短詩型は、限られた文字数の中で作者の感情や情景を凝縮して表現することを可能にし、より洗練された詩の世界を切り開きました。

中国文学史における永明体の位置づけ

このように、永明体は唐代の近体詩の形成に重要な役割を果たしており、中国の文学史上、無視できない位置を占めています。永明体の詩人たちの試みは、中国詩の歴史において、大きな転換点となったと言えるでしょう。また、「唐代近体詩」との対比で、永明体及びそれ以後の南北朝後期に作られた詩を「六朝新体詩（りくちょうしんたいし）」として総称することもあります。

永明体の詩人たちが追求した詩の美学は、後世の詩人たちに受け継がれ、中国詩の豊かな伝統を形成する上で重要な役割を果たしました。その影響は、現代においてもなお、中国文学の研究において重要なテーマとなっています。

参考文献

興膳宏「従四声八病到四声二元化」（『唐代文学研究』第3輯、広西師範大学出版社、1992年）
興膳宏「律詩への道―句数と対句の側面から―」（『東方学会創立五十周年記念・東方学論集』東方学会、1997年）
興膳宏「五言八句の成長と永明詩人」（『学林』第28・29号、中国芸文研究会、1998年）
高木正一「六朝における律詩の形成」（『六朝唐詩論考』創文社、1999年）
松浦友久「六朝新体詩から唐代近体詩へ―「対偶性」と「拍節リズム」を中心に―」（『中国詩文の言語学 松浦友久著作選1』研文出版、2003年）

関連項目

漢詩
中国文学
文鏡秘府論

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