玄言詩

玄言詩は、4世紀頃の中国、東晋時代に盛んに作られた詩の形式です。その背景には、魏の時代に始まった玄学という思想潮流がありました。何晏らによって始められた玄学は、老荘思想を基盤とし、哲学的な談義（清談）を通じて貴族社会に広まりました。竹林の七賢の時代を経て、東晋時代には社会全体に浸透し、詩の世界にも影響を与えたのです。

玄言詩の特徴は、社会や日常生活の具体的な描写を避け、観念的な玄学の哲理を主題とすることです。東晋の詩人たちは、個別の事象よりも普遍的な真理を探求し、それを詩に表現しようとしました。そのため、玄言詩は東晋時代の詩風の主流を占めることになります。

南朝梁の鍾嶸は、著書『詩品』の中で、孫綽、許詢、桓温、庾亮らを玄言詩の代表的な詩人として挙げています。特に孫綽と許詢は「孫許」と並び称されるほどの存在でした。しかし、鍾嶸は玄言詩に対し、「理が言葉を上回り、淡々として味わいが少ない」「皆、平凡で道徳論に似ている」と厳しく批判しています。玄言詩が抽象的な観念論に偏り、詩としての力強さや情感を失い、類型化してしまったことを指摘したのです。

こうした反省から、東晋後期には新たな詩風が生まれます。謝混は、具体的な山水風景の美しさを詠む山水詩を創始しました。この流れは、南朝宋の謝霊運の時代に全盛期を迎えます。また、同時期に陶淵明は、故郷での生活をテーマにした田園詩を作り始めました。これらの新しい詩風が人気を集めるにつれて、玄言詩は徐々に衰退していきました。

玄言詩は、その哲学的な探求と抽象性において、中国詩の歴史において独特な位置を占めています。しかし、その観念的な偏りは、詩としての魅力を損なう結果となり、より具体的で感情豊かな詩風の登場によって、その役割を終えることになったのです。

参考文献
松浦友久編『漢詩の事典』（大修館書店、1999年）
興膳宏訳注『詩品』（朝日新聞社〈中国文明選.13『文学論集』〉所収、1972年）

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