御所巻

御所巻（ごしょまき）とは

御所巻とは、室町時代に、大名たちが将軍の御所を包囲し、幕府の政治に対して要求や異議を申し立てる行為を指します。これは、大名たちが連署した訴状を将軍に提出するといった一定の形式を伴うものでしたが、主君である将軍の御所を家臣である守護大名が包囲するという行為は、当時の社会秩序を大きく揺るがすものでした。

御所巻の背景

室町時代には、大名や国人領主の家臣団が一揆を結成し、家督問題や家政一般について異議を申し立てることがありました。御所巻は、その幕府版とも言えるもので、幕府の施策に対する大名たちの不満や要求が表面化したものです。室町幕府では、将軍が諸大名に諮問や協議を行うことで方針を決定していましたが、御所巻は、それ以外の場面で大名たちが幕府の方針に対して意見を申し入れる手段として用いられました。

御所巻の特徴

御所巻は、事前に箇条書きにした訴状に諸大名が連署して将軍に提出するという形式的な側面がありました。しかし、家臣が主君の御所を包囲するという行為は、既存の主従関係を脅かす不穏なものと見なされ、社会的には決して好意的に受け止められませんでした。また、御所巻は、権力者を排除して共同の利益を得ようとするために行われることもありましたが、同僚の大名が不当に処罰された際に、将軍の専制を抑制するために行われることはありませんでした。この点は、江戸時代に行われた主君押込とは異なる特徴です。

御所巻の実例

歴史的に「御所巻」とみなされる行為や、その前後のやり取りから「御所巻」と推測される事例がいくつか存在します。

貞和5年（1349年）： 高師直らが足利直義一派の追放を求めて将軍・足利尊氏の邸宅を包囲（観応の擾乱）。
康暦元年（1379年）： 斯波義将らが細川頼之一派の追放を求めて将軍・足利義満の邸宅を包囲（康暦の政変）。
文正元年（1466年）： 細川勝元・山名宗全らが伊勢貞親一派の追放を求めて将軍・足利義政の邸宅を包囲（文正の政変）。
応仁元年（1467年）： 細川勝元・畠山政長らが畠山義就の追放を求めて足利義政の邸宅を包囲しようとしたところ、山名宗全・畠山義就らが畠山政長の追放を求めて包囲。さらにそれを細川勝元らが包囲。結果的に、両陣営を仲裁する形で畠山氏の内紛として決着し、応仁の乱に発展。
永禄8年（1566年）： 三好三人衆らが側近集団の処刑を求めて将軍・足利義輝の邸宅を包囲するが拒絶され、将軍殺害に至る（永禄の変）。
元亀4年（1573年）： 織田信長が足利義昭の二条[[御所]]を包囲。これは、信長打倒の兵を挙げた義昭の討伐ではなく、挙兵を勧めたとされる反信長派の側近集団の処分を求めた御所巻であるとする説も存在します。

この他にも、応永22年（1415年）と永享5年（1433年）にも京都で御所巻が発生したという噂が流れたとされています。

御所巻に関する学説

永禄の変について、清水克行は将軍殺害を目的とした虚偽の御所巻であったとする説を唱えています。一方、柴裕之は、御所巻自体は事実だが、その要求が過大であったため、最終的に武力行使に至ったと解釈しています。また、小池辰典は、明応2年（1493年）の明応の政変も、一部の大名から御所巻の一環として認識されていたと指摘しています。

御所巻は、室町幕府の政治構造や大名たちの動向を理解する上で重要な要素です。その背景や実例を考察することで、当時の社会情勢や権力闘争の様子をより深く理解することができます。

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