足利義維

足利義維：堺公方としての生涯

足利義維（あしかが よしつな）は、戦国時代から安土桃山時代にかけての人物で、室町幕府第11代将軍・足利義澄の次男（または長男）として生まれました。第10代将軍・足利義稙の養子となり、第14代将軍・足利義栄の父でもあります。堺公方、平島公方（阿波公方）、四国室町殿とも呼ばれました。

生涯

生誕と阿波への下向

永正6年（1509年）または永正8年（1511年）、近江国で誕生。父・義澄は前将軍・足利義稙との対立により将軍職を解任され、近江に落ち延びていました。義澄は二人の息子を別々の場所に送ることを決め、兄の義晴が播磨国へ送られたのに対し、義維は阿波国の細川澄元の庇護下で成長しました。

将軍擁立と堺公方の樹立

大永6年（1526年）、細川高国と対立した義稙が京都を去り、義晴が新たな将軍に擁立されたことで、義維を擁立する機運が高まります。翌年、細川晴元、三好元長らに擁立され、阿波から淡路に兵を進めました。晴元らの軍勢が京都を制圧するも、義維は入京せず、堺の寺院に滞在。ここに堺公方が誕生しました。義維は朝廷から左馬頭に叙任され、将軍就任の前提を得たものの、二人の将軍が並立する状況となりました。

義維は堺を拠点に、奉行人連署奉書を発給し、畿内の支配を目指しましたが、その支配基盤は脆弱でした。義晴も京都奪還のため動き、両勢力は対立を深めます。

義晴との攻防

義晴は5万の軍勢で入京を試みましたが、義維方の挟撃に遭い失敗。和睦交渉が進む一方で、義維は阿波に退却せず、義晴は晴元を疑心暗鬼になります。その後、義晴は近江に拠点を移し、畿内は義維・晴元方と義晴・高国方に二分されました。享禄2年（1529年）、元長が失脚し阿波に帰国、義維は劣勢に立たされます。

堺公方の崩壊

享禄4年（1531年）、元長は晴元の求めに応じて再び畿内に進軍、高国を自害に追い込みますが、堺公方内部で内紛が勃発。晴元と氏之の対立が激化し、一揆勢により元長が自害に追い込まれました。義維も捕らえられ、堺公方は崩壊します。その後、義維は淡路を経て阿波へと没落しました。

阿波での逼塞

義維は阿波で細川氏の庇護を受け、平島公方と称されましたが、長らく逼塞を余儀なくされます。その後、義晴と晴元の関係が悪化すると、晴元は再び義維を擁立しようとしました。義維は上洛を試みましたが、六角氏の仲介により義晴と晴元が和解し、再び阿波に帰還します。その後、三好長慶が台頭し、義維が擁立されることはありませんでした。

永禄の変と畿内への進出

永禄8年（1565年）、将軍・足利義輝が三好氏らによって殺害されると、義維に再びチャンスが訪れます。義輝の弟・義昭が擁立される一方で、三好氏は義維の息子・義栄を擁立することを目指し、義維もその動きを支援しました。

義栄は阿波から淡路を経て畿内へ進出し、越水城に入城。義維もこれに同道しました。永禄11年（1568年）、義栄は征夷大将軍に任じられ、室町幕府の第14代将軍となります。しかし、義栄の幕府は短命に終わります。

悲願の成就と敗北

義昭を擁する織田信長の軍勢が上洛を開始し、義栄方は劣勢に立たされます。義栄は病に倒れ、阿波へと退き、程なくして死去。義維の夢は瞬く間に潰え去りました。義維は再び阿波に帰還し、その後の活動は不明です。

最期

天正元年（1573年）、義維は平島で死去。同年、足利義昭が織田信長によって追放され、室町幕府は事実上滅亡しました。

人物・評価

義維は堺公方として一時的に優位に立ったものの、現職将軍であった義晴の権威を覆すことはできませんでした。義晴の巧みな外交戦略、朝廷の支持、諸大名の認識など、様々な要因が絡み合い、義維は将軍の座を掴むことができませんでした。

義維は義晴との兄弟関係についても議論があり、兄とする説と弟とする説が存在します。しかし、確実なのは義澄の息子であり、義晴の兄弟であるということだけです。義維の息子・義栄が将軍となったものの、その幕府も短期間で崩壊し、義維自身も悲劇的な最期を迎えました。

それでも、義維の血筋は現代まで続いており、足利尊氏の血を絶やさなかったという点で、歴史的な意義を持つ人物と言えるでしょう。

その他

木像は京都の足利家が所持し、それを模造した像が、阿南市立阿波公方・民俗資料館に所蔵されています。

偏諱を受けた人物

荒川維国
畠山維広（安枕斎守肱）
畠山維光

参考資料

天野忠幸『三好長慶 諸人之を仰ぐこと北斗泰山』ミネルヴァ書房、2014年。
天野忠幸『三好一族―戦国最初の「天下人」』中央公論新社、2021年。
榎原雅治; 清水克行 編『室町幕府将軍列伝』戎光祥出版、2017年。
山田康弘『足利義輝・義昭 天下諸侍、御主に候』ミネルヴァ書房、2019年。
長江正一『三好長慶』吉川弘文館、1989年。
若松和三郎『戦国三好氏と篠原長房』戒光祥出版、2013年。
木下昌規 編『足利義晴』思文閣出版、2017年。
久野雅司『足利義昭と織田信長』戒光祥出版、2017年。

外部リンク

足利義維 - コトバンク

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