沖至

沖至（おき いたる）

沖至（1941年9月10日 - 2020年8月25日）は、日本のジャズトランペット奏者です。兵庫県神戸市須磨区に生まれ、幼少期から音楽に囲まれた環境で育ちました。尺八奏者である父と、琴の師範である母を持ち、豊かな音楽的素養を育みました。高校時代にブラスバンドでトランペットを始め、近所に住んでいた南里文雄の実兄から直接指導を受けるという恵まれた環境にありました。

生涯

関西でディキシーランドスタイルのバンドで演奏を始めた後、ビバップスタイルのバンドにも参加し、演奏の幅を広げました。1960年代初頭には東京に拠点を移し、在日米軍キャンプなどで演奏活動を行いました。渡辺貞夫が主宰するジャズ音楽教室「ヤマハジャズインスティテュート」でジャズ理論を学び、神戸一郎のバックバンドとして離島ツアーに参加するなど、多様な経験を積みました。

沖至は、宮本信介、田村翼、峰厚介、リッキーと960ポンド、菅野光亮、西村昭夫、ESSG、佐藤允彦、富樫雅彦、山下洋輔、渋谷毅、白石かずこ、吉増剛造、高木元輝、ジョー水木、片山広明、井野信義、大友良英、翠川敬基、山崎比呂志、吉沢元治、豊住芳三郎、田中ほずみなど、数多くのミュージシャンや詩人、舞踏家と共演しました。1966年には、佐藤允彦、高木元輝、富樫雅彦とともにESSGを結成し、1969年にはヨーロッパツアーを敢行しました。1972年には、羽仁進監督の映画『午前中の時間割り』に出演するなど、多岐にわたる活動を展開しました。

1974年、沖至は活動の拠点をフランスのパリに移します。この移住は、『朝日新聞』の天声人語で「沖至のパリ移住は、一つの頭脳流出である」と評されるほど、注目を集めました。渡仏後は、アート・ファーマー、メイナード・ファーガソン、ノア・ハワード、リー・コニッツ、スティーヴ・レイシー、アラン・シルヴァ、サニー・マレイなど、ヨーロッパやアメリカの著名なジャズミュージシャンと共演しました。パリでは、アラン・シルバがアートディレクターを務めるジャズ学校 Institut Art Culture Perception (IACP) で、ビバップの理論やアンサンブル、ワークショップなどの指導も行いました。

1970年代から晩年にかけて、大野一雄、石井満隆、玉野黄市、室伏鴻、カルロッタ池田、笠井叡、吉本大輔、ヨシト、遠藤公義、財津暁平といった舞踏家との共演も多く、音楽と舞踊の融合を追求しました。また、ビージーズの録音に参加したという逸話も残されています。

1990年代中旬からは、毎年初秋に日本に帰国し、渋谷毅、さがゆき、菊池マリ、ジョー水木、小山彰太、梅津和時、川下直広、不破大輔、加藤崇之、波多江崇行、スガダイローらと日本各地でツアーを行いました。

晩年は、Francois Tusqes groupという定期的なグループで活動し、ヨーロッパ各地、アメリカ、日本を巡る多忙な日々を送っていました。2020年8月25日、パリの病院で逝去。

評価

沖至は、リュブリャナ国際ジャズフェスティバル、ナンシー・ジャズフェスティバル、ウィーン・ジャズフェスティバル、モントルー・ジャズフェスティバルなど、数多くの国際的なジャズフェスティバルに出演し、高い評価を得ました。

トランペットの収集家、製作者としても知られ、ベルが二つあるトランペットなど、独創的な楽器を製作しました。ニューヨークやフランスのトゥールで開催されたアートフェスティバル、コロンボのコンセルバトワールでトランペットコレクションの展示会を開催するなど、楽器への深い愛情を示しました。

日野皓正は、沖至について「この歳になってもずっと沖至と共にフリー・ジャズに挑戦し続けてきた」と語り、その音楽的な探求心と友情を称えました。

沖至の音楽は、「聴く者にこれほどの幻想を持たせてくれる沖至こそ、更なる幻視者なのだろう」「沖至は裏側の世界の所在を顕現させる現代の魔術師である」と評されるなど、聴衆に深い感動とインスピレーションを与えました。白石かずこは、「沖さんはときどき七変化を、すすきの原で笛ふきながら、孤りで影踊りしてみせてくれる」と、沖至の自由で創造的な表現を表現しました。

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