沙苑の戦い

沙苑の戦い（しゃおんのたたかい）

沙苑の戦いは、中国の南北朝時代、537年に沙苑（現在の陝西省渭南市大茘県の南）で起こった東魏と西魏の間の戦いです。この戦いは、兵力で劣る西魏が勝利したことで、その後の勢力図に大きな影響を与えました。

戦いの経緯

537年閏月、東魏の丞相である高歓は、20万の大軍を率いて壺口から蒲津に進軍し、高昂には3万の兵を与えて河南へ向かわせました。当時の関中地方は飢饉に見舞われており、西魏の丞相である宇文泰が率いる兵力は1万人にも満たない状況でした。

宇文泰は恒農で約50日間兵を休ませていましたが、高歓が蒲津から黄河を渡ったとの知らせを受け、関中へ引き返しました。一方、高昂は恒農を包囲しました。

西魏の華州刺史である王羆が馮翊城を守備しており、高歓は彼に降伏を勧告しましたが、王羆はこれを拒否しました。そのため、高歓は許原の西に駐屯しました。宇文泰は渭南で各地の兵を召集し、渭水に浮橋を建設、兵士には3日分の食糧を持たせて軽騎で渭水を渡り、輜重は渭南から渭水を挟んで西へ移動させました。10月壬辰、宇文泰は沙苑に到着し、東魏軍との間に約60里の距離を置いて陣を敷きました。西魏の将軍たちは兵力差に不安を感じていましたが、宇文深だけは竇泰の仇討ちに焦る高歓の心理を見抜き、勝利を確信して祝いました。宇文泰は達奚武に東魏軍の状況を偵察させました。

高歓は宇文泰が沙苑に現れたことを知ると、軍を進めて決戦を挑もうとしました。宇文泰は李弼の進言を受け入れ、沙苑から東へ約10里離れた渭水の屈曲部で迎え撃つことにしました。西魏軍は東西に水を背にして布陣し、李弼が右翼、趙貴が左翼を率いました。西魏軍の兵士たちは武器と共に葦の中に身を隠し、太鼓の合図で一斉に立ち上がるよう準備しました。東魏軍が渭曲に到着すると、斛律羌挙は渭曲の葦が長く、泥濘が深い地形を警戒して火攻めを提案しましたが、侯景が宇文泰を焼き殺してしまっては遺体の判別ができなくなると反対し、彭楽もまた味方の兵力を頼んで勝利を疑わなかったので、高歓は斛律羌挙の提案を却下しました。

東魏軍は西魏軍の兵力不足を見て、我先にと進軍し、隊列を乱しました。戦闘が開始されると、宇文泰は太鼓を鳴らし、西魏の全軍が一斉に立ち上がりました。于謹率いる六軍は東魏軍の正面に立ちはだかり、李弼らが鉄騎を率いて東魏軍の側面を攻撃すると、東魏軍は分断され大混乱に陥り、西魏軍は大勝利を収めました。李弼の弟である李檦や耿令貴（耿豪）が特に戦功を挙げ、宇文泰から賞賛されました。東魏の彭楽は酒に酔っていたところを西魏の兵士に刺され、腸を引きずりながらも奮戦しました。

高歓は再戦を試みようと自軍の立て直しを図り、張華原に陣を置こうとしましたが、東魏の各軍は敗走の勢いを止めることができませんでした。高歓は撤退を良しとせず、その場に留まろうとしましたが、斛律金が河東への帰還を強く勧め、高歓がなおも動かないと、斛律金は高歓の馬に鞭を打ち逃がしました。その夜、高歓は黄河を渡ろうとしましたが、船は岸を離れており、駱駝に乗って船を追いかけ、ようやく渡ることができました。東魏軍は8万の兵を失い、18万もの武具を放棄しました。宇文泰は高歓を黄河まで追撃しましたが、2万人ほどの兵を残して残りは帰還させました。西魏の都督である李穆は更なる追撃を主張しましたが、宇文泰は聞き入れませんでした。

西魏は丞相宇文泰に柱国大将軍の位を加え、李弼らの将軍たちもそれぞれ爵位を進めました。高昂は高歓の敗北を聞き、恒農の包囲を解いて洛陽へ撤退しました。

戦いの影響

沙苑の戦いでの勝利により、西魏は東魏に対する優位を確立し、その後の勢力拡大に繋がりました。宇文泰の戦略的手腕と、兵士たちの奮闘が光った戦いとして、歴史に名を刻んでいます。

参考文献

『資治通鑑』（中華書局，1956年）巻157 梁紀13
『北斉書』（中華書局，1972年）
『周書』（中華書局，1971年）
『北史』（中華書局，1974年）

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