河内国分寺跡

河内国分寺跡は、大阪府柏原市国分東条町に位置する古代寺院の遺跡です。この地は、奈良時代に聖武天皇の勅命によって全国に建立された国分寺の一つ、河内国分僧寺の跡地とされています。本稿では、僧寺跡に加えて、近隣に位置すると推定される河内国分尼寺跡についても解説します。

概要

河内国分寺跡は、大阪府東部、大和川の左岸に広がる台地上にあります。この場所は、古代には河内国安宿郡資母郷に属していました。周辺には、国分尼寺跡の推定地（約900メートル西）、竹原井頓宮推定地（約400メートル北北西）、河内国府推定地（約4キロメートル西北西）などが存在します。

1934年以降、複数回にわたる発掘調査が行われ、金堂跡と塔跡の遺構が検出されました。しかし、寺域全体や伽藍の詳しい配置は、まだ解明されていません。他の国分寺と比較して、平坦な寺域が狭く、急傾斜地に位置するという特徴があります。出土した瓦の一部は、1977年に大阪府指定有形文化財に指定されました。現在は、塔跡が史跡として整備され、一般公開されています。

歴史

創建

河内国分寺の創建時期は明確には分かっていませんが、天平13年（741年）の国分寺建立の詔が出された後に創建されたと考えられています。発掘調査の結果から、8世紀中頃に建立されたと推定されています。また、この地には、国分寺の前身となる寺院や先行する遺構が存在していた可能性も指摘されています。特に、出土した瓦が、大和川対岸の竹原井頓宮推定地で出土した瓦と同種であることは注目すべき点です。このことから、聖武天皇がこの地を訪れた際に滞在した施設が先に存在し、その後に国分寺が建立されたという説も提唱されています。

周辺には、鳥坂寺跡、田辺廃寺跡、片山廃寺跡などの古代寺院の跡も確認されています。

古代

延長5年（927年）に成立した『延喜式』には、国分寺の維持費として稲1万束が規定されていたことが記されています。天永2年（1111年）の記録には、河内国分寺の講師を務める東寺の僧侶が、その職務を継続することが認められたという記述があります。また、時期は不明ですが、和泉国池田郷に河内国分寺の領地が存在していたという記録も残っています。

中世・近世

鎌倉時代初期に成立した『諸山縁起』には、「国分寺」という記述が見られ、これは河内国分寺を指すとされています。建永2年（1207年）には、「河内国末寺国分寺宝名徳泉寺」という記述があり、この寺が通法寺の末寺であった可能性を示唆しています。また、応永元年（1394年）には、西琳寺の所領の中に「国分寺分」という土地が含まれていたという記録があり、この時期には西琳寺の支配下にあったと考えられます。そのほか、康永4年（1345年）の記録にも河内国分寺に関する記述が見られます。

その後、河内国分寺は早い段階で廃寺となり、江戸時代にはその所在が不明となっていました。国分寺の場所を探す中で、「東条」、「西条」、「北条」、「南代」という地名の中央に位置する「機ケ辻」が国分寺跡と比定され、地蔵堂が建てられました。現在、この場所には高野山真言宗の国分寺があります。

近代以降

近代以降の河内国分寺跡に関する主な出来事は以下の通りです。

古くから「東条廃寺」または「杜本廃寺」として知られていた。
1934年から1935年にかけて、大阪府によって塔跡が確認された。
1970年、発掘調査により塔基壇と推定される中門遺構が検出され、河内国分寺跡と認定された（大阪府教育委員会）。
1977年3月31日、出土した瓦当が大阪府指定有形文化財に指定された。
1984、1990、1998、2000年度に、柏原市教育委員会によって発掘調査が実施された。
2006年から2008年度にかけての調査で、従来の中門遺構が金堂遺構である可能性が指摘された（柏原市教育委員会）。
2009年、塔跡付近に真言宗河内国分寺が設立された。

伽藍

寺域は不明確ですが、一般的な国分寺は2町四方の広さを持つとされています。しかし、河内国分寺跡ではそのような広大な平坦地が確認できないため、寺域は狭かったと推測されています。現在までに、金堂跡と塔跡の遺構が検出されています。

金堂（推定）

金堂は、本尊を安置するための建物です。塔跡の西側にその遺構が推定されています。1970年の調査では中門跡や回廊跡と考えられていましたが、2008年の調査で金堂跡である可能性が指摘されました。基壇は凝灰岩の切石を用いた壇上積基壇で、高さは約1.3メートルです。基壇の上面は後世に削平されており、建物の規模は不明です。また、基壇の周囲からは雨落ち溝などは検出されていません。

塔

塔は、経典を納めるための建物です。河内国分寺の塔基壇は、凝灰岩切石による壇上積基壇で、一辺約19メートル、高さ1.54メートルです。基壇の四方には6段の階段が設けられていました。基壇上面は、方形の凝灰岩が斜格子状に敷き詰められています。心礎を含む6個の礎石が現存しており、基壇上の建物は10.36メートル四方であったと推定されます。これは、大規模な七重塔であった可能性を示唆しています。現在は基壇が復元整備され、見学が可能です。

出土品

推定寺域からは、多くの瓦が出土しています。これらの瓦には、国分寺で用いられた瓦と、前身寺院で使用されていた瓦が含まれています。国分寺の瓦は、奈良時代中頃の平城宮系の複弁七葉蓮華文軒丸瓦と均整唐草文軒丸瓦の組み合わせ（青谷式）が特徴です。この瓦の瓦窯跡は、河内国府推定地周辺の誉田御廟山古墳の外堤付近で発見されています。一方、前身寺院の瓦は、白鳳時代から奈良時代前半頃の、片岡王子系、岡寺系、薬師寺系などの瓦です。出土した瓦のうち、軒丸瓦と軒平瓦の計11点が大阪府指定有形文化財に指定されています。

ただし、河内国府から遠く、大和国に近い場所にあること、寺域が狭く急傾斜地が迫っていることなどから、この場所を国分寺跡とすることに疑問を呈する意見もあります。かつては、田辺廃寺跡や片山廃寺跡が国分寺跡であるという説もありました。

河内国分尼寺跡

河内国分尼寺跡の正確な場所は特定されていません。僧寺跡の西側にある「尼寺」という地籍や、この付近で奈良時代の瓦が出土していることから、この一帯に存在したと推定されています。

これまでの調査では、伽藍の建物遺構は確認されていません。出土した軒丸瓦は、河内国分寺の前身寺院瓦（複弁蓮華文、重圏文）と類似していますが、国分寺の主要な瓦である青谷式の複弁七葉蓮華文瓦は確認されていません。文献資料にも河内国分尼寺に関する記述が少ないため、平安時代には衰退したという説が有力です。

文化財

大阪府指定文化財

有形文化財
河内国分寺塔跡出土瓦当 11点（考古資料） - 軒丸瓦瓦当3種4点、軒平瓦瓦当3種7点。柏原市立歴史資料館保管。1977年（昭和52年）3月31日指定。

脚注

参考文献

史跡説明板（大阪府教育委員会・柏原市教育委員会、1990年設置・1994年設置）
『柏原市内遺跡群発掘調査概報 -平成18（2006）年度-（柏原市文化財概報2007-I）』柏原市教育委員会、2008年。
「河内国分寺跡」、「河内国分尼寺跡」。
『柏原市内遺跡群発掘調査概報 -平成19（2007）年度-（柏原市文化財概報2008-I）』柏原市教育委員会、2008年。
「河内国分寺跡」。
『柏原市内遺跡群発掘調査概報 -平成20（2008）年度-（柏原市文化財概報2009-I）』柏原市教育委員会、2009年。
「河内国分寺跡」。
『日本歴史地名大系 28 大阪府の地名』平凡社、1986年。
中世諸国一宮制研究会編編『中世諸国一宮制の基礎的研究』岩田書院、2000年。

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