河内方

河内方：鎌倉時代の源氏物語研究をリードした一族

鎌倉時代、歌壇や源氏物語研究において、大きな影響力を持った集団として知られるのが河内方です。河内国を拠点としていたわけではありませんが、祖である源光行と子の源親行が共に河内守を歴任したことから、この名が付けられました。

河内方の活動

源光行は鎌倉と京都を往来し、後に鎌倉を活動拠点としました。承久の乱では後鳥羽上皇側に加担したため処刑の危機に瀕しましたが、鎌倉方にいた息子の嘆願によって救われました。このエピソードからもわかるように、皇室に近い血筋を持ちながらも、政治的には高い地位には就けませんでした。そのため、家系や生没年など、不明な点も多く残されています。

河内方という呼称は、正式名称ではなく、「河内家」「河内学派」「河内守一派」「源光行一統」「源光行一家」「源氏の家」など、様々な呼び方があります。

河内方の業績：源氏物語研究への貢献

平安時代末期、様々な異本が存在し、どれが正しいのか分からなかった源氏物語の本文を、河内方は様々な写本を精査することで「河内本」を成立させました。これは後の源氏物語研究に多大な影響を与えました。

さらに、河内方は水原抄などの体系的な注釈書を著しました。これは、それまでの断片的な注釈書とは異なり、源氏物語全体を網羅した初めての注釈書です。当時、京都の貴族階級の人々は平安時代の言葉や制度をある程度理解していたため、原文を読むことにそれほど苦労はしませんでしたが、鎌倉などの地方の武士階級の人々にとっては、源氏物語の理解には注釈が必要でした。河内方の注釈書は、このような地方の武士層のニーズに応える形で発展したと考えられています。

河内方の終焉とその後

室町時代に入ると、河内方の血筋は途絶え、源氏学の中心は京都に移りました。河内方の注釈書である水原抄も散逸し、河内本も室町時代以降400年以上、確認されませんでした。

しかし、河内方が提唱した数々の解釈は、後の研究に大きな影響を与えました。特に、四辻善成による「河海抄」は、河内方の影響を強く受け、「古注の集大成」として評価されています。稲賀敬二は、「河海抄」を「続河内方」と位置づけています。また、室町時代以降主流となった三条西家本系統の青表紙本も、河内本から多大な影響を受けていると考えられています。

河内方と関連する主要な事柄

1163年（長寛元年）: 源光行誕生
1221年（承久3年）: 源光行、承久の乱で処刑寸前となるも、息子の嘆願で助かる
1236年（嘉禎2年）: 河内本校合作業開始
1244年（寛元2年）: 源光行死去
1254年（建長6年）: 源親行が将軍宗尊親王に源氏物語を講義
1255年（建長7年）: 河内本完成
1258年（正嘉2年）: 北条実時が尾州家本源氏物語を書写
1265年～1268年（文永2年～5年）: 河内本校合作業
1293年～1294年（永仁元年～2年）: 素寂、『紫明抄』を将軍久明親王に献上
1313年（正和2年）: 源義行、『原中最秘抄』に加筆
1363年～1364年（正平18年～19年/貞治2年～3年）: 行阿、『原中最秘抄』に加筆

河内方の注釈書

河内方の中心的な注釈書である『水原抄』は大部分が失われていますが、『原中最秘抄』や素寂による『紫明抄』などが残されています。ただし、現存するものは、必ずしも当時の姿そのままではないと考えられています。

『水原抄』
『紫明抄』
『異本紫明抄』
『原中最秘抄』

河内方に属した人物

源光行（寂因）
源親行（覚因）：光行の子
源義行（聖覚）：親行の子
行阿（源知行）：義行の子
素寂：親行の弟（源孝行の可能性もある）。『紫明抄』著者。義行・行阿らと対立
素因：素寂の子

参考文献

山岸徳平『源氏物語開題：尾州家河内本』
* 稲賀敬二「源光行・親行と河内学派の形成」

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