河村若芝

河村若芝

河村若芝（かわむら じゃくし）は、寛永15年（1638年）に生まれ、宝永4年10月1日（1707年10月25日）に没した、江戸時代前期に長崎で活躍した画家であり工芸家です。字は蘭渓、道号は道光。煙霞比丘、風狂子、紫陽山人、散逸道人、普馨など、多くの号を持ち、釈道光、意山和尚とも呼ばれました。

略伝

肥前国佐嘉の豪族、龍造寺氏の出身とされています。詳しい経緯は不明ですが、隠遁生活を送った後、長崎に移り住み、黄檗僧らと交流する中で逸然に師事し、画を学びました。渡辺秀石と共に長崎漢画を代表する画人となり、師である逸然と同じく「煙霞比丘」の画号を共有しました。道釈人物図を得意としましたが、山水図や花鳥画も手掛け、喜多元規風の頂相も描いています。

若芝の画風は、風狂子の号が示すように、奇抜で奔放な造形美が特徴です。その独創性は、後の伊藤若冲や曾我蕭白といった奇想の画家たちに大きな影響を与え、彼らの先駆け的存在として位置づけられています。若芝流は、上野若元、河村若軌、山本若麟、芦塚若鳳、牛島若融、上野若龍（写真家・上野彦馬の父）など、多くの門弟を輩出し、幕末までその流れを汲む画家たちが活躍しました。唐絵目利職を務めた小原慶山も一時、若芝の門下にあったとされています。また、紀州の南画家、祇園南海に中国絵画の添削指導を行い、日本南画の発展にも貢献しました。

金工技術においては、木庵から鉄腐象眼を学び、若芝鐔工の祖となりました。二代目河村若芝もこの鐔工の技術を継承し、優れた刀鍔を制作しています。

法号は蘭渓若芝上座。墓所は海雲山晧台寺後山にあります。現在確認されている作品は50点余りです。

作品

（作品リストは省略）

参考文献

渡辺秀実『長崎画人伝』
田能村竹田『屠赤瑣瑣録』
『瓊浦画工伝』（文化元年 春孔撰 文化10年 今井孝寛増訂）
古賀十二郎『長崎画史彙伝』大正堂書店、1983年
成澤勝嗣「物はやりの系譜」（『隠元禅師と黄檗宗の絵画展』所載、神戸市立博物館、1991年）
阿野露団 『長崎の肖像 長崎派の美術家列伝』形文社、1995年
* 赤木美智 「河村若芝の研究 ─文献と初期作品を中心に─」『フィロカリア』22号、大阪大学大学院文学研究科芸術学・芸術史講座、2005年3月29日、pp.65-120。

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