頂相

頂相（ちんぞう/ちんそう/ちょうそう）とは

頂相とは、禅宗の高僧の肖像画や肖像彫刻を指す言葉です。字義的には「頭部の相貌」を意味しますが、単なる顔の描写にとどまらず、禅宗における師の人格や精神性を表現する重要な役割を担っています。

頂相の歴史と背景

頂相は、もともと仏教における如来の頭頂部を指す言葉でした。そこから転じて、禅宗では師の姿も尊いものとして捉え、その肖像を表すようになりました。この概念は、12世紀から13世紀の中国・南宋時代に確立し、日本にも伝わったと考えられています。

禅宗では、言葉や経典だけでなく、師との直接的な交流を通して悟りを得ることを重視します。そのため、師の人格そのものが仏法として尊ばれ、師の肖像である頂相は、弟子にとって非常に重要な存在となりました。また、頂相は、師から弟子へと法を継承した証である印可状の一部としても用いられました。

さらに、葬儀や法要などの儀式においても、頂相は重要な役割を果たしました。高僧の葬儀には肖像画が飾られ、開山忌などの法要では、開山や歴代祖師の像が法堂に掲げられました。

頂相の造形と形式

頂相は、絵画と彫刻の両方で表現されます。いずれの場合も、師の精神性や性格を正確に捉えることが重要とされます。そのため、制作にあたっては、まず師と向き合い、デッサンを重ねて「紙形」と呼ばれる下絵を作成します。この紙形は、複数枚作成されることもあり、その中から師が最も気に入ったものが本画の基となります。

絵画の場合、全身坐像が最も一般的で、法衣をまとって椅子に座り、手には竹篦や払子を持っています。足元には沓床と沓が描かれるのが一般的です。一方、半身像や円相図、経行図、屋外に座る姿を描いた作例も存在します。また、複数の頂相をセットにした列祖像という形式もあります。

彫刻の場合も、絵画と同様に全身坐像で表現され、法衣の裾を長く垂らして座ります。ただし、体部はやや形式的に単純化され、写実は面貌に集中する傾向があります。

頂相の代表的作品

鎌倉時代から南北朝時代にかけては、特に優れた頂相が多く制作されました。以下にその代表的な作品を挙げます。

国宝

「無準師範像」東福寺蔵（南宋時代、1238年）
「蘭渓道隆像」建長寺蔵（鎌倉時代、1271年）
「大燈国師像」大徳寺蔵（南北朝時代、1334年）

重要文化財

画像
「兀庵普寧像」正伝寺蔵（鎌倉時代、13世紀）
「南浦紹明像」興徳寺蔵（鎌倉時代、1307年）
「夢窓疎石像」妙智院蔵（南北朝時代、14世紀）
彫像
「無学祖元坐像」円覚寺（鎌倉時代、13世紀）
「高峰顕日坐像」正統院（鎌倉時代、1315年）
「一山一寧坐像」南禅寺（鎌倉時代、14世紀）
「樵谷惟僊坐像」安楽寺（鎌倉時代、1329年）
「退耕行勇坐像」浄妙寺（鎌倉時代、14世紀）

これらの作品は、いずれも高い芸術性と歴史的価値を有しており、日本の文化財として貴重な存在です。

参考文献

西川杏太郎編 『頂相彫刻』 至文堂〈日本の美術123号〉、1976年8月
貫達人編 『鎌倉国宝館図録 第三十六集 鎌倉の肖像彫刻』 鎌倉国宝館、1997年12月20日
展覧会図録 『建長寺創建750年記念 鎌倉 禅の起源』 東京国立博物館、2003年
展覧会図録 『亀山天皇700年御忌記念 南禅寺』 東京国立博物館 京都国立博物館、2004年
展覧会図録 『足利義満六百年御忌記念 「京都五山 禅の文化」展』 東京国立博物館 2007年、九州国立博物館 2008年

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