津和野・乙女峠の殉教者

津和野・乙女峠の殉教者

1867年（慶応3年）、明治政府による隠れキリシタン弾圧事件「浦上四番崩れ」により、浦上村のキリシタンたちは日本各地へ流刑となりました。そのうち153名が津和野に送られ、乙女峠で37名が殉教しました。

殉教に至る経緯

1865年3月17日、長崎の大浦天主堂で浦上のキリシタンたちがベルナール・プティジャン神父に信仰を告白したことで、日本のキリスト教徒の存在が世界に知られました。この「信徒発見」をきっかけに「浦上四番崩れ」が発生。江戸幕府と明治政府によって、約3400人の浦上キリシタンが日本各地に流刑となりました。

1868年と1870年の二度にわたり、153人のキリシタンが津和野藩に流刑となり、乙女峠の光琳寺に収容されました。当初、役人たちはキリシタンたちに丁寧な態度で接し、棄教を勧めました。しかし、彼らはこれを拒否したため、厳しい拷問を受けることになりました。その結果、6人が棄教し「改心者」として別の場所に移され、食料や衣服が与えられました。一方、残りのキリシタンたちは「不改心者」として過酷な拷問に耐え、最終的に37名が殉教という最期を遂げました。

禁教令の終焉と殉教の記憶

この過酷な弾圧は世界中から批判を浴び、明治政府は1873年（明治6年）、キリスト教禁止の高札を撤去しました。これにより、262年続いた禁教令は終止符を打たれました。各地に流刑されていた浦上キリシタンたちは帰郷を許され、津和野に流刑された生存者も故郷に戻りました。

浦上キリシタンの帰郷後、津和野におけるキリシタン弾圧の痕跡は撤去され、忘れ去られようとしていました。しかし、パリ外国宣教会の司祭エメ・ヴィリヨンは、1891年夏にヨハンナ岩永とともに津和野を訪れ、光琳寺跡を発見、殉教者の遺骨を収集し埋葬しました。1922年には記念碑が建立され、1951年にはカトリック津和野教会の主任司祭であったイエズス会士パウロ・ネーベルが乙女峠を整備し、乙女峠マリア聖堂を建立しました。翌1952年からは「乙女峠まつり」が始まり、津和野の行事として毎年5月3日に開催されています。

列聖運動

2013年、前田万葉枢機卿（当時・広島司教）により、津和野・乙女峠の殉教者の列聖運動が開始されました。そして2019年2月5日、教皇庁列聖省に承認されました。これは、彼らの信仰の証が公式に認められたことを意味します。

殉教者一覧

津和野・乙女峠で殉教した37名の信徒は以下の通りです。

フランシスコ・マリア 深堀和三郎
ジョアン・バプチスタ 森安太郎
ジョアン・ヨゼフ 岩永清四郎
ミカエル 藤田清次（治）郎
イナシオ 松岡孫四郎
ミゲル 山口熊吉
パウロ 深堀忠四郎
マリナ 片岡さめ
ドミンゴス 岩永甚三郎
ドミンゴス 岩永吉三郎
パウロ 片岡三右衛門
サビナ 藤田わび
カタリナ 中島その
カタリナ 深堀なか
ジョアン・バプチスタ守山甚吉
ペトロ 中島駒吉
深堀八十助
ドミニコ 片岡兵（与）助
カタリナ 深堀さい
カタリナ 深堀とめ
ロレンソ 平井正太郎
パウロ 片岡三八
ジョアン 岩永源八
ドミニコ 岩永又市
カタリナ 岩永すき
ジョアン・バプチスタ 守山国太郎
マダレナ 松尾こま
ドミニコ 守山祐次郎
キリスナ 深堀きり
ドミンゴス 片岡惣市
ジョアン・バプチスタ 深堀松五郎
カタリナ 相川わゐ
カタリナ 岩永もり
カタリナ 松尾かめ
ペトロ新三郎

参考資料

乙女峠の証し人 - カトリック広島司教区列聖委員会
* 乙女峠の殉教者（カトリック津和野教会ホームページ内）

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