海軍高山流抜刀術

海軍高山流抜刀術は、昭和初期に大日本帝国海軍の軍人であり武道研究家でもあった高山政吉によって創設された抜刀術の流派です。この流派は、実戦での有効性を追求し、日本刀の特性を最大限に活かすことを目指しました。別名として、海軍軍刀術、高山流抜刀術、高山流とも呼ばれています。

歴史

高山政吉は、従来の片手サーベル式の軍刀が実戦において不便であると感じ、日本刀式の抜刀術の必要性を強く訴えました。自ら戦場での検証を行い、改良を重ねた結果、高山流抜刀術が誕生しました。

1937年（昭和12年）の第二次上海事変勃発後、高山は中国に渡り、南京攻略戦に参加していた第16師団に身を寄せました。そこで実戦を経験し、1938年（昭和13年）には近代戦に対応した「白兵抜刀術」の草案を完成させました。帰国後の1940年（昭和15年）には、雑誌で「武道改革所見」を発表し、舞鶴海兵団や海軍兵学校などで講演や実技を披露しました。その結果、高山の白兵抜刀術は海軍機関学校に採用されることになりました。

同年5月5日には、大日本武徳会京都全国大会で、舞鶴海軍が「高山流白兵抜刀術」として公開しました。陸軍でも高山の刀法理論の採用が検討され、同年5月19日、松井石根大将、中島今朝吾中将、石原中将の推薦により、陸軍戸山学校で検討が行われました。9月20日には、中山博道範士の上申に基づき、陸軍大臣官邸で高山の刀法が審議され、採用が決定しました。同年10月18日には、陸軍大臣の東条英機から採用が承認され、高山は陸軍から終身教官として遇されることが伝えられました。11月には、陸軍戸山学校から「軍刀の操法及試斬」が発行され、将校たちに伝えられました。

太平洋戦争末期の1944年（昭和19年）1月19日、高山刀法を全国に広めるため、東北、中部、西部・四国、九州の4区に分け、指導体制が整えられましたが、1945年（昭和20年）8月15日の終戦により、高山流の発展は停止しました。戦後は創始者の高山が山中に隠棲したこともあり、高山流は衰退しました。

現在の高山流

高山流は、戸山流居合道が戦後に発展を遂げたのとは対照的に、その勢いを失いました。しかし、戸山流居合道の発展に大きく貢献した中村泰三郎は、高山政吉との親交があり、自身の著書で高山の功績を評価しています。中村は「現在では高山流を継承する者はいない」と述べていましたが、実際には高山の直弟子である千原義夫と小山勇に師事した者が、現在も三世として高山流を指導しています。ただし、その規模は少人数にとどまっています。

高山流と戸山流の関係

陸軍戸山学校では、1925年（大正14年）から古流居合を参考に、軍刀操法の研究が行われていました。その成果として1940年（昭和15年）11月には、「軍刀の操法及試斬」が発行され、全国部隊の帯刀者に伝えられました。高山も同時期に、中国での実戦経験を基にまとめた「白兵抜刀術」の原稿を戸山学校に提出しており、戸山流の成立に影響を与えたと考えられています。

戦後、武道や日本刀の製作が禁止されていましたが、1952年（昭和27年）のサンフランシスコ講和条約発効により解禁されました。これにより、戸山流居合道は森永清らによって武道界に広められました。現在の戸山流は、中村泰三郎、森永清、山口勇喜、徳富太三郎らの団体によって継承されています。一方、高山流は、小山勇が自宅で道場を開き、わずかに命脈を保つ程度でした。小山は生前、高山の功績を称えようとしましたが、戦前・戦中の功績は認められず、叙勲は実現しませんでした。

戸山流は、旧陸軍戸山学校を起源とする居合の流派として全国的に広まりましたが、高山流は舞鶴を起源とし、現在ではわずかな継承者がいるのみとなっています。

参考文献

高山政吉『近代戦用起草案白兵抜刀術』（昭和13年2月11日）
高山政吉『武道改革所見』（昭和15年）
高山政吉『実戦と武術の改革』（昭和17年2月1日）
高山政吉『（題名不明）高山流の写真解説集』（昭和17年頃か）
高山政吉『海軍軍刀』（昭和18年9月30日）
高山政吉『仰ふく陸海空自衛隊参考剣道として検討』（昭和45年7月15日）
高山政吉『日本武道体系』（昭和45年11月3日）
『海軍武道教範』（軍刀術之部）（昭和17年）
『海軍軍刀術（仮称）（基本業ノ部）』（昭和17年6月　佐世保第一海兵団）
『抜刀術参考書』（昭和17年10月　横須賀潜水艦基地隊）
『海軍軍刀術（抜萃）』（昭和18年9月　舞鶴海軍工廠）
『海軍々刀術臨時講習』（昭和19年12月）
『軍刀術』（昭和20年1月　呉団体育科）
『海軍武道教範（軍刀術）』（昭和20年3月）
『軍刀術指導参考』（昭和20年5月　横砲校体育部）
時岡侃『斬人斬馬の剣法を求めた男』（昭和60年前後か）
横砲に勤務した隊員の同窓会誌『鬼束鉄夫閣下追悼録』（平成元年2月11日）
国会図書館蔵の貴重本の写本『（題名不明）山田朝右衛門試斬伝書』（昭和40年前後か）

外部リンク

旧日本帝国陸海軍軍刀ブログ版 Military swords (高山刀) - ウェイバックマシン（2019年11月1日アーカイブ分）
海軍高山流白兵抜刀術　鹿児島連絡所　(公式ホームページ)
海軍高山流白兵抜刀術　金沢連絡所　(公式ホームページ)

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