海野幸光

海野幸光：戦国時代の吾妻を駆け抜けた武将

海野幸光（うんの ゆきみつ）は、戦国時代に上野国吾妻郡で活躍した武将です。国衆として地域に影響力を持っていましたが、その生涯は武田氏の興亡と密接に結びつき、激動の時代を象徴する人物と言えるでしょう。

生い立ちと出自

幸光は、吾妻郡羽根尾（現在の長野原町）を領していた国衆・羽尾景幸の次男として生まれました。羽尾氏は、鎌倉時代に三原荘の地頭となった海野幸氏の子孫とされています。幸光と弟の輝幸は海野氏を名乗っており、これは、信濃を追われた海野棟綱の名跡を継いだ可能性も指摘されています。

戦国時代に入ると、吾妻郡東部を領有していた吾妻斎藤氏が勢力を拡大し、羽尾氏の支配領域にもその影響が及ぶようになりました。兄の羽尾治部入道道雲も斎藤憲広に従属するようになり、幸光もこの動向に深く関わっていきます。

武田氏との関わりと離反、そして内応

永禄4年（1561年）、武田信玄による西上野侵攻が開始されると、斎藤憲広や羽尾道雲ら吾妻郡の国衆は武田氏に従属しました。しかし、幸光は鎌原重澄との所領問題を抱え、武田氏との関係が悪化。永禄6年（1563年）には、斎藤憲広らが武田氏から離反し、岩櫃城に籠城するという事態に発展します。

当初、幸光は兄と共に斎藤方に味方しますが、真田信綱と室賀満正による調略を受け、弟の輝幸、斎藤憲広の甥である斎藤弥三郎と共に武田氏に内応。岩櫃城を武田氏に引き渡しました。この内応は、幸光の運命を大きく左右する出来事となりました。

武田氏の家臣として

内応後、幸光は武田氏の家臣となり、岩櫃城に配備され、真田氏の指揮下に入りました。真田幸綱の推薦により、「吾妻郡代」に任命されたという記録も残っています。娘は浦野弾正忠と鎌原重澄に、弟の嫡男・幸貞は矢沢頼綱の婿となり、海野一族は武田氏の支配体制の中で重要な役割を担うようになりました。

天正8年（1580年）に始まった武田氏の沼田城攻略戦では、幸光は前線の名胡桃城に配置され、輝幸や金子泰清、渡辺左近丞らを指揮しました。沼田城攻略後、弟の輝幸は沼田城二ノ丸に配備され、兄弟で岩櫃城と沼田城という北上野の重要拠点を抑えることになりました。翌年3月7日には、上野でさらに二つの城を手に入れたことを真田昌幸から賞されています。

海野兄弟粛清事件と悲劇的な最期

しかし、天正9年（1581年）、幸光と弟の輝幸、甥の幸貞は、突如として武田氏によって粛清されてしまいます。事件の詳細は不明な点が多いですが、『加沢記』には、幸光が真田昌幸の軍勢に屋敷を襲撃され、盲目でありながらも果敢に戦い、14、5人を切り伏せたものの、最終的に自刃したと記されています。

また、館から逃れた妻と娘は家来によって殺害され、弟の輝幸とその子・幸貞も、沼田城で加津野昌春の襲撃を受けて自刃しました。海野一族は、この粛清によって悲劇的な最期を遂げました。

粛清の背景

幸光ら海野一族が粛清された理由として、鎌原氏との所領問題や、沼田城攻略後に吾妻郡の支配を巡って真田昌幸と対立したことが挙げられています。平山優は、上野支配の安定化を図る武田・真田氏が、海野氏を排除することで、所領問題の解決と領国の安定化を図ったと推測しています。

また、沼田城攻略に伴う恩賞宛行の遅延や、高天神城落城による武田氏の求心力低下も、幸光らの離反を誘発した可能性も指摘されています。

まとめ

海野幸光は、戦国時代の激しい動乱の中で、その生涯を駆け抜けた武将です。武田氏の興亡に翻弄され、最終的には悲劇的な結末を迎えましたが、その勇猛さと行動力は、後世に語り継がれるべきでしょう。吾妻郡という地域に根ざした国衆として、また、戦国武将として、海野幸光の存在は、戦国史を語る上で欠かせない人物の一人と言えるでしょう。

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