海野幸氏

海野幸氏（うんの ゆきうじ）

海野幸氏は、鎌倉時代初期に活躍した武将であり、信濃国（現在の長野県）の名族である滋野氏の嫡流、海野氏の当主です。『保元物語』や『平家物語』に登場する海野幸親の三男（または長男の子）とされ、当時を代表する弓の名手として知られています。

生涯

治承4年（1180年）、木曾義仲が信濃国で挙兵した際、父や兄と共に参陣しました。寿永2年（1183年）には、義仲が源頼朝との和睦の証として嫡男の清水冠者義高を鎌倉に送る際、同族の望月重隆らと共に随行しました。

元暦元年（1184年）、木曾義仲が滅亡すると、その過程で父と兄が戦死しました。義高が鎌倉を脱出しようとした際、幸氏は身代わりとなって義高を逃がそうとしましたが、義高は討手に捕えられ殺害されてしまいます。しかし、幸氏の忠義を認めた源頼朝は、彼を御家人に加えました。

その後、幸氏は弓の名手として『吾妻鏡』に何度も登場します。文治6年（1190年）には、頼朝の射手として鶴岡八幡宮の弓始めに参加し、建久2年（1191年）には、頼朝が再建した善光寺の落慶に供奉しました。建久4年（1193年）の富士の巻狩りでは、藤沢清親、望月重隆、禰津宗直らと共に弓の名手として記録されています。建久6年（1195年）には、頼朝の東大寺再建供養で警固役を務め、住吉大社での流鏑馬では射手に選ばれました。建仁元年（1201年）には、源頼家の御前での的始儀の射手に選ばれ、当時の天下八名手の一人に数えられ、武田信光、小笠原長清、望月重隆と並んで弓馬四天王と称されました。

嘉禎3年（1237年）には、北条泰時の孫である時頼に流鏑馬を指南し、鶴岡八幡宮で騎射の技を披露した際には、「弓馬の宗家」と讃えられたと伝えられています。仁治2年（1241年）には、将軍九条頼経に、射手が懸物を賜る作法を伝授しました。

また、幸氏は武将としても活躍し、建久4年（1193年）の曾我兄弟の仇討ちの際には頼朝の護衛役を務めて負傷し、建仁元年（1201年）の建仁の乱、建暦3年（1213年）の和田合戦、承久3年（1221年）の承久の乱にも出陣しています。

仁治2年（1241年）には、甲斐国守護の武田信光との間で、領地の境界を巡る争いに勝訴しており、このことから、幸氏の代に海野氏の勢力が信濃から上州西部へと拡大したことがわかります。

建長2年（1250年）の『吾妻鏡』に「海野左衛門入道」の名が登場しますが、これが幸氏であると推測されており、その後の記録はなく、没年については不明です。

海野氏のその後

幸氏の活躍により、海野氏は御家人の中でも優遇されたとされていますが、同時に、以後の系譜や資料に異同が見られるようになります。これは、海野氏の勢力が拡大し、一族が各地に拡散したことによるものと考えられています。南北朝時代から戦国時代にかけて、海野氏の流れを汲む支族が、信濃全域から上野西部に広く分布していました。

関連作品

テレビドラマ
『草燃える』（1979年、NHK大河ドラマ、演：長谷川諭）
『鎌倉殿の13人』（2022年、NHK大河ドラマ、演：加部亜門）

出典

「郷土歴史人物事典 長野」第一法規 1978年
* 「長野県史通史編 第2巻 中世1」

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