深泥池

深泥池：歴史と自然が織りなす、貴重な生態系

京都盆地北端部に位置する深泥池は、池と湿地からなる独特の地形です。その面積は約9.2ヘクタール、周囲は約1540メートル。周囲を標高200メートルに満たない丘陵地が三方を囲み、南西端のみが京都盆地へと開けています。流入河川はありませんが、1927年（昭和2年）の松ケ崎浄水場の建設以降、配水池からの漏水がわずかに流入しています。

池の中央には、地図には表記されない浮島が存在します。この浮島は、水面とほぼ同じ高さで、貧栄養性の湿原が広がり、多様な植物が生育する貴重な場所です。夏には浮き上がり、冬には沈むという特異な動きも見せます。

深泥池の歴史：平安時代から現代まで

深泥池の歴史は古く、『類聚国史』には淳和天皇が「泥濘池」で水鳥猟を行った記述があり、これが池の名称に関する最古の記録と考えられています。平安時代には和泉式部や藤原実資も和歌や日記でこの池に言及しており、「みどろ池」「美度呂池」といった名称が用いられていました。

時代が下ると「御菩薩池」「美曽路池」「美曽呂池」といった名称も現れ、江戸時代には「御菩薩池」が最も一般的な名称でした。これは、地蔵菩薩信仰の霊地として地蔵堂が「京の六地蔵廻り」の第一霊場として崇められていたことに由来します。明治時代初頭の神仏分離令により、地蔵堂が移転したことをきっかけに、「深泥池」という名称が定着していったと考えられています。

読み方については、「みどろがいけ」と「みぞろがいけ」の二通りがあり、現在も混在して使用されています。これは、「泥濘」の古訓「ミソコル」（溝に水が滞る）に由来し、水流に着目するか、泥濘に着目するかの違いから生じたものと考えられています。

深泥池の生物多様性：貴重な生態系の保全

深泥池は、最終氷期からの生き残りである生物と温暖帯の生物が共存する、学術的に貴重な場所です。1927年には植物群落が国の天然記念物「深泥池水生植物群」として指定され、1988年には「深泥池生物群集」として指定範囲が拡大されました。

浮島と高層湿原には、ミツガシワ、ホロムイソウ、ジュンサイ、タヌキモ、モウセンゴケなど多様な植物が生息しています。また、約60種のトンボ（日本全体の約4分の1）、フナ、ヨシノボリ、スジエビ、クサガメ、ニホンイシガメなどの動物、そして170種以上の野鳥も確認されています。1930年には日本で初めてミズグモが発見された場所でもあります。

しかし、近年はナガバオモダカ、キショウブなどの外来植物や、ブルーギル、オオクチバスなどの外来魚類の増加が問題となっています。これらは在来種のメダカやタモロコなどに影響を与えており、地元住民や研究者らは外来種の駆除や水質改善に取り組んでいます。

深泥池を取り巻く課題と取り組み

深泥池は、道路拡幅計画による埋め立ての危機もありましたが、地元住民らの反対運動により計画は中止されました。現在では、「深泥池を美しくする会」「深泥池を守る会」「深泥池水生生物研究会」などの市民団体が、保全活動に尽力しています。

深泥池は、歴史と自然が織りなす貴重な場所です。その保全には、継続的な努力と地域住民の意識の高さが不可欠と言えるでしょう。

交通アクセス

京都市営地下鉄烏丸線北山駅から徒歩10～15分
京都市営バス・京都バス4号系統、45・46系統「深泥池」バス停から徒歩3分
* 京都府道40号、103号などからもアクセス可能

周辺情報

深泥池周辺には、深泥池貴舩神社、秋葉神社、深泥池地蔵堂などの神社仏閣や、深泥池児童公園、福祉施設などが立地しています。また、すぐ近くには賀茂別雷神社（上賀茂神社）も位置しています。

もう一度検索