渋川則休

渋川則休（しぶかわ のりよし）は、江戸時代中期の江戸幕府に仕えた天文方・天文博士である。通称は六蔵といった。

その生涯は波乱に満ちていた。天文方であった父、渋川敬尹の嫡男として江戸で生まれたが、わずか10歳の時に父が急逝するという不幸に見舞われる。父の急死に伴い、その門人であった渋川敬也が後継者となり、則休は敬也の養子として引き取られた。しかし、その敬也も父の死からわずか一年後に亡くなってしまう。こうして、則休は11歳という非常に若い年齢で、第5代の天文方を襲職することになった。

天文方の主要な職務の一つに、暦の作成や改訂があった。延享3年（1746年）、時の将軍徳川吉宗は、それまで用いられていた貞享暦を新しい暦に改める計画を進め、若年の則休をこの改暦事業の担当者の一人に任命した。しかし、父と養父という指導者を相次いで失い、十分な研鑽を積む時間がなかった則休は、自らの暦学が未熟であることを幕府に率直に申し出た。

この申し出を受け、幕府は則休を支えるための策を講じた。まず、翌年である延享4年（1747年）1月20日、それまで一名体制だった天文方を二名体制とし、天文学や測量学に精通していた西川正休（にしかわ まさやす）を新たに天文方に任命した。西川は則休の指導役として、改暦事業を推進する役割を担うことになったのである。さらに、西川が任命されてからわずか三日後には、天文方の監督を寺社奉行から若年寄へと変更した。これは、年若い則休をより強力に支援し、改暦という重要な事業を円滑に進めようとする幕府の意向を示すものであった。

寛延2年（1749年）11月、則休は指導役の西川正休とともに、幕府から正式に改暦事業を進めるよう命じられた。翌年である寛延3年（1750年）2月27日には、改暦に不可欠な観測を行うため、当時の経度の基準点とされていた京都へ上洛した。京都では、改暦のための詳細な観測事業を進めると同時に、朝廷の陰陽頭であった土御門泰邦（つちみかど やすくに）との協議も開始した。新たな暦を作り出すためには、実測に基づいた天文学的な計算だけでなく、朝廷との調整も必要だったからである。

改暦事業は着実に進められているかに見えたが、思わぬ出来事が起こる。寛延3年（1750年）に桜町上皇が崩御されたのである。これに伴い、改暦事業は一時的に中断されることになった。則休は同年6月に一旦江戸へ戻ることになった。

しかし、江戸に戻って間もなく、則休は病に倒れてしまう。そして、そのまま回復することなく、わずか34歳でこの世を去った。志半ばでの早すぎる死であった。法号は真涼院天山紹心居士と諡された。その墓所は、東京都品川区にある東海寺に営まれている。

渋川則休の生涯は非常に短く、特に天文方としての実質的な活動期間は、若くして襲職した割には限られていた。しかし、彼は将軍吉宗の重要な政策であった改暦事業の開始期に深く関わり、幕府が天文方を二名体制とし、若年寄支配下に置くという組織改編が行われる契機となった人物である。相次ぐ肉親・指導者の死、そして自らの早世という波乱の人生であったが、江戸時代における天文学や暦学の発展史において、その名は欠かせない存在として記憶されている。

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