渡辺勝 (開拓者)

渡辺勝（わたなべ まさる）は、嘉永7年（1854年）9月に生まれ、大正11年（1922年）6月15日に亡くなった、明治期を代表するクリスチャン開拓者の一人です。

尾張藩の槍術指南役、渡辺綱良の長男として、嘉永7年（1854年）に名古屋城下の武平町で生を受けました。明治維新後の明治7年（1874年）6月、東京へ移り、電信技術の試験に合格しました。

彼の人生の転機となったのは、明治9年（1876年）1月にヒュー・ワデルが開いていた東京・芝の私塾で聖書を学び始めたことです。ここで彼は、後に共に北海道開拓を進めることになる依田勉三や、妻となるカネの兄にあたる鈴木銃太郎といった人々との交流を深めました。そして、明治10年（1877年）1月7日には洗礼を受け、キリスト教徒となります。同年10月からは東京一致神学校に入学し、ワデル塾に通いながら学びを続けました。

明治11年（1878年）8月、友人である依田勉三の勧めもあり、伊豆の蓮台寺にあった豆陽学校（現在の静岡県立下田北高等学校の前身）で英語教師を務めることになりました。この職を明治16年（1883年）まで務め、教育者としての一面も持ちました。同年4月9日には、かねてより交流のあった鈴木カネと結婚しています。

妻である渡辺カネもまた、北海道開拓を共に歩んだ人物です。安政6年（1859年）4月14日、信州上田藩士の娘として江戸に生まれました。父は上田藩の勘定奉行を務めた人物の子息で、鈴木家を継いで武士となりましたが、廃藩置県により職を失い、一家は苦難を経験しました。カネは16歳でミッションスクールである共立女学校に入学し、7年間学んで英文全科と皇漢学科を卒業する優秀な女性でした。彼女は夫と共に北海道の地で厳しい開墾に従事し、6人の子供たちを育て上げました。

結婚後、渡辺勝は依田勉三の一族が結成した北海道開拓団「晩成社」の幹部として、妻と共に北海道へ移住しました。明治16年（1883年）からは、十勝の下帯広村（現在の帯広市）に入植し、厳しい自然の中での開墾作業に勤しみました。

開墾を進める傍ら、明治22年（1889年）には然別の地で牧場経営に着手します。明治26年（1893年）には本格的な放牧に乗り出し、本州から実弟の豊吉を呼び寄せて牧場の管理を任せました。大村壬作や数名のアイヌ民族を傭人として雇い入れ、十数頭の馬を飼育するなど、規模を拡大していきました。この年から、彼は然別太に定住し、牧場経営に専念する生活を送るようになりました。

しかし、同年、晩成社を離れることになります。その後も彼は然別で地域社会に根差し、貢献を続けました。明治34年（1901年）には然別の総代として選出され、村の世話役として地域の諸問題解決に尽力しました。明治39年（1906年）に音更村が「二級村」へと昇格した際には、第一回村議会議員となり、引き続き地域社会の発展に貢献しました。

晩年、大正10年（1921年）10月26日に脳溢血で倒れ、翌大正11年（1922年）6月15日にその生涯を閉じました。彼の遺言により、葬儀は神道の形式で執り行われたと伝えられています。

渡辺勝と妻カネが入植した帯広市東10条南5丁目付近には、夫妻の功績を記念して「渡辺勝・カネ入植地の碑」が建てられており、彼らがこの地の開拓に果たした役割を今に伝えています。

もう一度検索