渡辺幸庵

渡辺幸庵：虚実が入り混じる、謎多き武人の生涯

渡辺幸庵（わたなべ こうあん）は、天正10年（1582年）に生まれたとされる人物です。武将であり、柳生新陰流を学んだ剣客とも伝えられていますが、その生涯には不明な点が多く、実在した人物なのかどうかさえ議論されています。

波乱に満ちた前半生

幸庵は初め、徳川家に仕え駿河国に赴きました。関ヶ原の戦いでは徳川秀忠の配下で大番頭を務め、その後、伏見城や駿府城、二条城の城番を歴任しました。徳川秀忠の子・徳川忠長の傅役にも選ばれますが、忠長が改易、切腹となり、幸庵は浪人となります。

40年に及ぶ諸国放浪

浪人後、幸庵は名前を改め、諸国巡礼の旅に出ます。その足跡は日本に留まらず、中国、天竺（インド）、ベトナム、タイなど、実に40年もの間、海外を放浪したと語られています。

『渡辺幸庵対話』

帰国後、幸庵は加賀藩の前田綱紀のもとに身を寄せます。そこで、加賀藩士の杉木義隣に自身の体験を語り、それが『渡辺幸庵対話』としてまとめられました。

『渡辺幸庵対話』には、島原の乱での板倉重昌の討死、ベトナムとタイの間の砂漠、ミイラ採りとの遭遇など、奇想天外な話が数多く記されています。また、剣術に関しては、上泉信綱と同世代の剣客・竹村武蔵の方が柳生宗矩よりも実力が上だと評価する記述もあります。

130歳という驚異的な長寿

幸庵は宝永8年（1711年）に130歳で亡くなったとされています。しかし、この年齢をはじめ、『渡辺幸庵対話』の内容には不自然な点が多く、その信憑性が疑われています。

『寛政重修諸家譜』との矛盾

『寛政重修諸家譜』には、「渡邊茂」という人物の記述があります。この渡邊茂と渡辺幸庵の間には、生没年や経歴に大きな矛盾が見られます。

渡邊茂は近江国で七千石を知行し、寛永13年（1636年）に致仕。
寛永15年（1638年）に88歳で死去。墓所は泉岳寺。
生年は天文20年（1551年）。
通称は新蔵、または久左衛門。
大番となったのは慶長10年（1605年）。

これらの点から、『寛政重修諸家譜』の渡邊茂と『渡辺幸庵対話』の渡辺幸庵は、別人である可能性が高いと考えられています。

架空の人物なのか？

渡辺幸庵は、その奇抜な言動や矛盾点から、架空の人物であるという説も存在します。あるいは、渡邊茂を騙る別の人物だったのかもしれません。

小説への影響

司馬遼太郎は、『渡辺幸庵対話』に登場する竹村武蔵を宮本武蔵に見立てた短編小説『真説宮本武蔵』を創作しています。

まとめ

渡辺幸庵は、謎に包まれた人物です。その生涯は虚実が入り混じり、多くの謎を残しています。しかし、その存在は後世の文学作品に影響を与え、人々の想像力を刺激し続けています。

関連情報
渡辺幸庵 - コトバンク
* 史籍集覧. 第16冊 別記第二百三十二 渡邊幸庵對話

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