港が見える丘 (ちあきなおみのアルバム)

港が見える丘

『港が見える丘』は、歌手・ちあきなおみが1985年（昭和60年）2月5日にビクターのInvitationレーベルからリリースしたアルバムです。これは、ちあきがビクターに在籍していた時期に発表した計4枚のアルバムの中で、最後を飾る作品となりました。

このアルバムは、それまでのちあきの作品とは一線を画す内容を持っています。過去のアルバムでは、フランスのシャンソンやジャズ、ポルトガル民謡であるファドといった海外の楽曲を積極的にカバーしてきましたが、本作では日本の歌謡曲に焦点を当て、特に戦前・戦後の時代に広く親しまれた流行歌を取り上げています。

サウンド面では、ピアニストの倉田信雄氏と、ロックバンド・ムーンライダーズのメンバーである武川雅寛氏がアレンジを手がけています。彼らによる編曲は、原曲の魅力を活かしつつも、現代的な感覚を取り入れた斬新なアプローチが施されており、当時の音楽シーンでも大きな話題となりました。

本作のプロデューサーを務めた東元晃氏は、このアルバムの企画意図について、歌詞カードにコメントを寄せています。それによると、シャンソンやジャズ、ファドと続くちあきの音楽的な流れを保ちながら、過去の日本の名曲にリズムやハーモニーといった新たな装いを施し、ちあきなおみの豊かな情感溢れる歌唱を一層際立たせることを目指したとのことです。

収録曲の中でも、特に「星影の小径」は特筆すべき存在です。この曲は、アルバム発売と同年にAGF「マキシム・レギュラーコーヒー」のCMソングに採用されたことで大きな注目を集めました。

さらに、ちあきなおみが芸能活動を休止した後も、「星影の小径」は時代を超えて多くの人々に愛され続けました。1992年にはアウディ、2006年にはキリンビバレッジ「実感」といった有名企業のCMに再び起用されるなど、その訴求力の高さが証明されました。これらのCMタイアップに合わせて、「星影の小径」は新たにシングル盤としてもリリースされています。この際のシングルには、本作の表題曲である「港が見える丘」がカップリング曲として収録されています。

また、このアルバムは後に再発売されており、1993年と2006年には、収録曲の知名度を受けてか、アルバムタイトルが『星影の小径』と改題されてリリースされました。

収録曲

本作に収録されている楽曲は以下の通りです。

星影の小径
作詞：矢野亮、作曲：利根一郎
編曲：倉田信雄
1950年発表の小畑実による楽曲のカバーです。
雨に咲く花
作詞：高橋掬太郎、作曲：池田不二男
編曲：倉田信雄
1935年発表の関種子による楽曲のカバー。井上ひろしのリバイバル・ヒットでも知られています。
港が見える丘
作詞・作曲：東辰三
編曲：武川雅寛
1947年発表の平野愛子による楽曲のカバーです。
上海帰りのリル
作詞：東条寿三郎、作曲：渡久地政信
編曲：倉田信雄
1951年発表の津村謙による楽曲のカバーです。
青春のパラダイス
作詞：吉川静夫、作曲：福島正二
編曲：倉田信雄
1946年発表の岡晴夫による楽曲のカバーです。
ハワイの夜
作詞：佐伯孝夫、作曲：司潤吉
編曲：武川雅寛
1952年発表の鶴田浩二による楽曲のカバーです。
水色のワルツ
作詞：藤浦洸、作曲：高木東六
編曲：武川雅寛
1950年発表の二葉あき子による楽曲のカバーです。
雨のブルース
作詞：野川香文、作曲：服部良一
編曲：武川雅寛
1938年発表の淡谷のり子による楽曲のカバーです。
夜霧のブルース
作詞：島田磬也、作曲：大久保徳二郎
編曲：倉田信雄
1947年発表のディック・ミネによる楽曲のカバーです。

これらの楽曲を通じて、ちあきなおみは日本の流行歌に新たな息吹を吹き込み、その表現力の幅広さを示しました。特に「星影の小径」のロングヒットは、このアルバムが持つ普遍的な魅力と、ちあきなおみの歌声が時代や世代を超えて響く力を持っていることを証明しています。

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