湘語

湘語（しょうご）は、シナ・チベット語族に属するシナ語派の言語で、中国語の方言の一つとして位置づけられます。漢民族の約5％が使用しており、湖南省を中心とする地域で話されています。

湘語の区分

湘語は、大きく分けて新湘語と老湘語の二つに分類されます。この二つの方言は、発音や語彙において異なる特徴を持ち、それぞれが独自の進化を遂げてきました。

分布地域

湘語は、湖南省の大部分（西北部と東部の一部を除く）に加え、広東省や広西チワン族自治区の北部、そして四川省の一部でも使用されています。代表的な方言としては、新湘語の長沙語と、老湘語の双峰語が挙げられます。

歴史的背景

湘語の歴史は古く、そのルーツは先[[秦]]時代の古楚語にまで遡ることができます。

古楚語

古楚語は、春秋時代後期には既に存在していたと考えられており、湖南省および湘水流域で最古の言語の一つとされています。当時の中原の言葉とは大きく異なり、楚国の隆盛とともに、その影響範囲を広げていきました。孟子も楚の言葉を「鳥語のよう」と表現したと伝えられており、その差異の大きさを物語っています。多くの専門家は、この古楚語が現在の湘語の成立に大きな影響を与えたと見ています。

南楚語

前[[漢]]時代には、揚雄によって南楚語という方言群が記録されています。これは、古楚語の系統を受け継ぎつつ、呉語との関連も指摘される方言です。南楚の地理的範囲は、現在の湖南省、江西省の大部分、そして湖北省、広東省、広西チワン族自治区の一部にまで及び、その一部語彙は共通語に取り入れられた一方で、湘語の方言として現代まで受け継がれています。南楚語は、秦漢代の土着言語と融合して形成されたとされ、「古湘語」と呼ぶ研究者もいます。

中古湘語

漢代には、湖南地域に少数民族が居住していましたが、その後の戦乱を避けて多くの人々が北から流入し、人口が急増しました。唐代にも移民は続き、五代十国時代までに、湖南地域では中原からの移民増加とともに南楚語に大きな変化が起こりました。

近世湘語

宋代以降、湖南省の西部を除き、漢民族の進出が加速しました。元代には戦乱で人口が激減しましたが、元末明初には江西省からの大規模な移民が湖南省に流入し、現代の湖南方言の分布に大きな影響を与えました。湘北・湘西地区では北京[[官話]]の影響を強く受け、湘東地区では江西方言の影響を受けました。平江県、瀏陽市、醴陵市、攸県などは贛語地区に分類される一方で、岳陽市、長沙市、株洲市、湘潭市、衡陽市などでは、南楚語がその後の贛語の影響を受けながらも存続し、新湘語の形成につながりました。ただし、この点については研究者の間で議論が続いています。

音韻の特徴

声母（語頭子音）

清濁の対立: 老湘語では、古代の濁音体系が残っていますが、新湘語では失われています。
歯擦音: [s, z, ʦ, ʣ, ʦʰ]などの歯茎音が存在します。
その他: [l]と[n]は開口呼・合口呼の前では区別されず、[n]と[ȵ]は斉歯呼の前で区別されます。[xu]が[f]と混同されることがあります。また、多くの方言では、舌上音や正歯音の声母が/t/になる傾向がありますが、長沙などではこの現象が薄れつつあります。

韻母（母音と語尾子音）

鼻韻母: [n]と[ŋ]の区別がありますが、[m]は[n]に合流しています。[ŋ]も[n]に合流する傾向があります。
入声: 入声の子音韻尾は消滅していますが、声調区分としては残っています。

声調

5つまたは6つの声調が存在します。入声は韻尾の消失により声調区分として残っています。

関連事項

中国語: 湘語は中国語の方言の一つです。
アレクサンドル・ドラグノフ: ロシアの言語学者で、湘語を五大方言区から独立させるべきであると提唱しました。


湘語は、複雑な歴史的背景を持つ言語であり、その多様な特徴は、中国の言語文化を理解する上で重要な要素となっています。

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