源朝長

源朝長：平治の乱を生き、そして散った若き武将

源朝長は、平安時代末期に活躍した武将です。源義朝の次男であり、源頼朝、源義経とは異母兄弟にあたります。母は波多野義通の妹と伝えられています。相模国松田郷を領し、「松田冠者」あるいは「松田殿」と呼ばれていました。

華麗なる始まりと平治の乱

朝長の生涯は、保元4年（1159年）に二条天皇の中宮・姝子内親王（後の高松院）の中宮少進に任じられたことから始まります。当時、従五位下の位階を得ており、同時期には異母弟の頼朝も上西門院の蔵人に任じられています。順風満帆なスタートを切ったかに思われた朝長でしたが、平治の乱によって運命の歯車が狂い始めます。

平治元年（1159年）12月、父・義朝は藤原信頼と結んでクーデターを起こします。しかし、平清盛の反撃によって敗北し、東国へ逃亡することになります。朝長は16歳の若さで、父や兄・義平、弟・頼朝とともに、内裏防衛に当たりました。激戦の中で、朝長は左腿に矢を受け負傷します。義朝からの励ましを受けつつも、叔父である義隆の重傷を気遣うなど、気丈に振る舞う姿が『愚管抄』などに記されています。

逃亡と悲劇の最期

京を脱出した一行は、比叡山の僧兵による落人狩りに遭遇し、義隆は落馬。朝長も負傷が悪化します。一行は近江国堅田の浦で義隆を埋葬した後も逃亡を続けますが、疲労困憊した頼朝は脱落。美濃国青墓宿で一時休息を取ります。ここで義朝は義平と別れ、朝長は傷の悪化を理由に、父の同行を拒否します。

様々な史料によって朝長の最期は異なった形で伝えられています。有名な『平治物語』「金比羅本」では、義朝が朝長の試練として信濃への行軍を命じ、傷が悪化した朝長が青墓宿へ引き返します。義朝は朝長の弱さを嘆き、最終的には朝長の懇願を受けて自らの手で殺害したと記されています。一方、古態本『平治物語』では、義朝が朝長を励ますも、朝長が同行を断念したため、やむを得ず殺害したという記述が見られます。いずれの記述も、父子の悲劇的な別れを描いています。

朝長の遺体は、青墓宿の長者・大炊によって丁重に埋葬されましたが、後に平氏に発見され、首が京の六条河原に晒されます。しかし、大谷忠太によって首は奪還され、遠江国豊田郡友永村（現静岡県袋井市）に埋葬されました。そのため、朝長の墓は岐阜県大垣市と静岡県袋井市に二つ存在することになります。

歴史に刻まれた若武者

松尾芭蕉は、青墓の朝長の墓を訪れ、「苔埋む蔦のうつつの念仏哉」と詠んでいます。また、能楽の演目『朝長』にも、その悲劇的な最期が描かれています。わずか16歳で平治の乱に参加し、幾多の困難を乗り越えながらも、最後は父の手に命を落とした朝長。彼の短い生涯は、平安時代末期の激動を象徴する、一つの物語として歴史に刻まれています。 彼の勇猛さと悲劇的な運命は、後世の人々にも深い感銘を与え続け、様々な形で語り継がれてきました。 平治の乱という激動の時代を生きた若き武将、源朝長の生涯は、現代においても私たちに多くのことを語りかけてくれるでしょう。

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