濱田芳通

濱田芳通（はまだ よしみち）は、日本を代表する指揮者、そしてリコーダーとコルネット（ツィンク）のヴィルトゥオーゾとして国際的に活躍する音楽家です。自ら主宰する古楽アンサンブル≪アントネッロ≫は、古楽界において独自の存在感を放っています。

音楽一家に生まれ育った濱田は、音楽理論家、指揮者、作曲家である濱田徳昭を父に持ち、曽祖父は東洋音楽学校（現・東京音楽大学）創立者の鈴木米次郎という家系です。弟の濱田芳治は多摩美術大学の教授であり、祖母は淡谷のり子に声楽を指導した久保田(鈴木)稲子、祖父は海軍少将の久保田芳雄という、芸術と学術に秀でた家系に連なります。

リコーダーとコルネットの演奏家としては、国内外で数多くの演奏活動、録音を行っています。海外でリリースされたCDは全てディアパソン５つ星を獲得し、その演奏技術と音楽性は高く評価されています。

バロック・オペラの指揮者としては、モンテヴェルディの3大オペラ《オルフェオ》《ウリッセの帰還》《ポッペアの戴冠》をはじめ、カッチーニ作曲《エウリディーチェ》（本邦初演）、ヘンデル作曲《ジュリオ・チェーザレ》、レオナルド・ダ・ヴィンチが関わったとされる劇作品《オルフェオ物語》(本邦初演)など、オペラ創成期からバロック初期の作品を意欲的に取り上げています。これらの公演は、古楽ファンのみならず、幅広い層から支持を集めています。

また、教会音楽作品、特にモンテヴェルディ作曲「聖母マリアの夕べの祈り(Vespro della Beata Vergine)」においては、国内最多の上演回数を誇り、その解釈の深さと完成度の高さは特筆に値します。

濱田の活動は、古楽の演奏、研究に留まりません。戦国時代にヨーロッパから日本へ伝わった南蛮音楽の研究もライフワークとしており、「天正遣欧少年使節の音楽」「エソポのハブラス」「フランシスコ・ザビエルと大友宗麟」といったテーマでCDリリースや芝居付き演奏会を行うなど、独自の視点から日本の音楽文化に光を当てています。著書「歌の心を究むべし」(アルテスパブリッシング)では、その音楽に対する深い洞察を垣間見ることができます。

桐朋学園大学古楽器科卒業後、スイス政府給費留学生としてバーゼル・スコラ・カントルムに留学。1994年に古楽アンサンブル≪アントネッロ≫を結成。2001年からは東京藝術大学・同大学院古楽科リコーダー専攻講師を歴任し、後進の指導にも力を注いでいます。2011年には東京二期会研修所マスタークラスの指揮者を務め、2019年にはダヴィンチ音楽祭の音楽監督に就任するなど、多岐にわたる活動を展開しています。

その功績は数々の受賞歴にも表れており、2005年に第7回ホテルオークラ音楽賞、2015年に第28回ミュージック・ペンクラブ・ジャパン音楽賞（室内楽・合唱部門）と第14回佐川吉男音楽賞、2019年に第６回JASRAC音楽文化賞、2020年に第50回ENEOS音楽賞洋楽部門奨励賞と第17回三菱UFJ信託音楽賞奨励賞、そして2022年には第53回サントリー音楽賞を受賞しています。

ＮＨＫ大河ドラマ「信長 KING OF ZIPANGU」への出演(1992年)や、スタジオジブリ「耳を澄ませば」の録音に参加(1995年)するなど、メディアへの露出も多数。東京オペラシティ「B→C」シリーズ(2000年)、目白バ・ロック音楽祭レジデンツアーティスト(2005年)などを経て、東京国立博物館でのレオナルド・ダ・ヴィンチ誕生記念コンサート(2007年)では、絵画『受胎告知』をバックに演奏するという貴重な経験もしています。神奈川県立音楽堂＜音楽堂バロック・オペラ＞初演400年モンテヴェルディ作曲『オルフェオ』(2008年)を皮切りに、国内外の音楽祭に多数招聘され、各地で高い評価を得ています。

近年では、モンテヴェルディ没後450年記念公演や、レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年記念公演など、歴史的なイベントに合わせた企画も積極的に行い、古楽の魅力を現代に伝える活動を続けています。

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