火鼠

火鼠（かそ、ひねずみ、ひのねずみ）

火鼠は、中国に伝わる伝説上の生き物です。別名、火光獣（かこうじゅう）とも呼ばれています。中国南方の燃え続ける木の中に棲むとされ、その毛は特別な布「火浣布（かかんぷ）」の材料になるとされています。

特徴

火鼠は、文字通り火の中に棲むネズミのような姿で描かれます。しかし、大きさは文献によって異なり、小さいものでは数斤（数kg）、大きいものでは数百kgにもなるとされています。毛は非常に細く、絹糸のようだと表現されます。最大の特徴は、その毛で織られた布、火浣布が火に燃えないことです。

火浣布とは

火浣布は、火鼠の毛から作られるという伝説の布です。汚れても火で焼けば綺麗になるという不思議な性質を持つとされ、珍重されました。しかし、実際には火鼠の毛ではなく、石綿（アスベスト）を織って作られた布であると考えられています。アスベストは鉱物繊維で、耐火性に優れています。

文献における記述

火鼠に関する記述は、様々な中国の文献に見られます。

『神異経』： 南方の火山に棲み、重さは百斤または千斤、毛は二尺余りの白い絹糸のようだと記述されています。
『海内十洲記』： 火光獣というネズミのような生き物で、毛は3、4寸だとされています。
『抱朴子』： 南海の蕭丘に棲み、白鼠の毛から火浣布を作ることができるとされています。
『隋書西域伝』： 隋の煬帝の時代に、史国（現在のウズベキスタン）から火鼠の毛が献上されたとされています。
* 『和名類聚抄』： 火鼠の和名を「ひねずみ」とし、火鼠の毛で織った布は火にくべれば清潔になると説明しています。

日本への伝来

日本でも、火鼠は古くから知られていました。竹取物語には、かぐや姫が求婚者に出す難題の一つとして「火鼠の皮衣」が登場します。これは火浣布のことであり、火にくべても燃えない珍しい布として認識されていました。

サラマンダーとの比較

西洋には、火の中に棲むとされる伝説の生物サラマンダーがいます。サラマンダーも火鼠と同様に、アスベストと関連付けられることがあります。古代ローマのプリニウスはアスベストを「亜麻布」や「植物」と記述しましたが、後にサラマンダーからアスベストが得られるという伝承が生まれました。

不灰木（ふかいぼく）

火浣布に関連して、不灰木という燃えない木についても言及されることがあります。これは、火鼠の棲み家というよりは、アスベストの原料となる鉱物を指すことが多いようです。

まとめ

火鼠は、中国の伝説に登場する不思議な生き物です。その毛から作られる火浣布は、火に燃えない特別な布として珍重されました。火鼠の伝承は、アスベストという鉱物の存在と、その利用方法が古代から知られていたことを示唆しています。また、西洋のサラマンダーとの類似性も興味深く、東西の文化交流の一端を垣間見ることができます。

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