無常 (映画)

『無常』について

1970年に封切られた日本映画『無常』（むじょう）は、後に個性的な映像作家として知られる実相寺昭雄が、自身初の劇場用長編作品として手掛けた記念すべき一作である。当時の表現基準に基づき、倫理規定によってR18指定（成人映画）とされた本作は、その大胆かつ実験的な映像手法と、独自の美学によって公開当時から大きな注目を集めた。物語の詳細は提供情報にはないが、実相寺作品特有の退廃的でアングラ的な雰囲気を纏っていることが推測される。

国際的な評価と国内での反響

『無常』は、その芸術性が国内外で高く評価された。中でも特筆すべきは、1970年に開催された第23回ロカルノ国際映画祭において、見事最高賞である金豹賞（Golden Leopard）を受賞したことである。これは、まだ劇場長編デビュー作であった実相寺昭雄監督にとって、そして当時の日本映画界全体にとっても極めて栄誉ある快挙であった。この受賞により、実相寺監督の名は一躍国際的に知られることとなった。国内での評価も高く、権威ある映画雑誌『キネマ旬報』が選出する1970年度のベスト・テンにおいて、日本映画部門の第6位にランクインしている。これは、批評家筋からの高い評価を得たことを示しており、単なる成人映画の枠を超えた芸術作品として認知されていたことがわかる。

製作を支えたスタッフ陣

本作の独特な世界観や映像表現は、実相寺昭雄監督のビジョンを具現化した優秀なスタッフ陣によって支えられていた。

企画：葛井欣士郎、淡豊昭
脚本：石堂淑朗 - 後に多くの実相寺作品を手掛ける盟友であり、その独特のセリフ回しやストーリー構成は実相寺ワールドに不可欠な要素である。
音楽：冬木透 - ウルトラシリーズなどで著名な冬木透が、本作でも印象的な楽曲を提供し、映画の雰囲気を盛り上げている。
製作：淡豊昭、実相寺昭雄
撮影：稲垣涌三、中堀正夫、大根田和美 - 複数のカメラマンが参加し、様々なアングルや質感の映像を追求したことがうかがえる。
照明：佐野武治、林三男、加藤慶一 - 独特のライティングも実相寺作品の特徴の一つであり、照明スタッフの貢献は大きい。
スチール：立木三朗
美術：池谷仙克、大沢哲三 - 実相寺作品の視覚的な魅力を語る上で、美術の池谷仙克の存在は欠かせない。本作でもその才能が発揮されていることだろう。
装飾：畠山勝信、猪瀬雅久
録音：豊島司郎、鈴木章平、泉田正雄、広瀬浩一
音響効果：小森護雄
編集：柳川義博
移動効果：平鍋功、小笠原亀、石蔵進
衣裳：出村公子
記録：水平富喜子
進行：舞谷繁
デスク：吉井美那子
助監督：大木淳、山本正孝、佐藤静夫、谷沢雅俊 - 監督を支えた多数の助監督たちの名前が見える。
製作協力：コダイ・グループ、OFFICE・クマイ
配給：株式会社日本アート・シアター・ギルド - アート系映画の配給を手掛けていたATGが配給したことからも、本作の芸術性が重視されていたことがわかる。
監督：実相寺昭雄

このように、企画から配給に至るまで、当時の独立系・アート系映画製作に関わる主要な人々や組織が関わっており、体制内の映画製作とは一線を画す座組であったことが読み取れる。特に脚本の石堂淑朗、音楽の冬木透、美術の池谷仙克は、以降の実相寺作品においても重要な役割を担うことになる面々である。

出演者たち

『無常』には、当時の若手からベテランまで、多彩な俳優陣が出演している。

日野正夫：田村亮 - 主演の一人。
日野百合：司美智子 - 主演の一人であり、主題歌も担当。
森康弘：佐々木功 - アニメソング歌手としても知られる佐々木功が俳優として出演しているのは興味深い。
森令子：田中三津子
岩下：花ノ本寿
荻野：岡村春彦
日野亨吉：山村弘三 - ベテラン俳優が脇を固める。
お種：河東けい
老婆：菅井きん - 強烈な印象を残すベテラン俳優。
娼婦：集三枝子
ヤクザ：寺田農 - 個性派俳優として知られる寺田農が出演。
野武士：小林昭二 - ウルトラシリーズでお馴染みの俳優も名を連ねる。
森康高：岡田英次 - 『二十四時間の情事』などで国際的にも知られた俳優が重要な役どころで出演。

主演の田村亮と司美智子を中心に、山村弘三や菅井きんといった重厚な演技を見せるベテラン俳優、さらには寺田農や小林昭二、岡田英次といった個性的な面々が、実相寺監督の要求する独特の芝居で応えている。

主題歌

本作の主題歌は、映画の空気感を深める役割を果たしている。

作詞：川崎高
作曲：冬木透
* 唄：司美智子

音楽を担当した冬木透が作曲し、主演女優である司美智子が歌唱するという形式が取られている。

総括

1970年に公開された『無常』は、実相寺昭雄監督の記念すべき長編デビュー作として、そして第23回ロカルノ国際映画祭金豹賞受賞作として、日本映画史において重要な位置を占める作品である。R18指定を受けるほど大胆な表現と、実相寺監督独特の映像美学、そして才能あるスタッフと個性豊かなキャスト陣の融合により、観る者に強烈なインパクトを与える唯一無二の映画として、今日でもその評価は揺るぎないものとなっている。

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