熊野町ジャンクション火災事故

2008年 8月3日午前5時52分、首都高速5号池袋線下り、熊野町ジャンクションにおいて、タンクローリーが急カーブを曲がり切れずに横転し、左側壁に衝突する事故が発生しました。この事故により、積載していたガソリンと軽油が炎上し、大規模な火災に発展しました。この事故は「首都高速5号池袋線タンクローリー火災事故」とも呼ばれます。

事故の概要

横転したタンクローリーは、群馬県高崎市の運送会社である多胡運輸が所有し、東京都江東区の油槽所から埼玉県さいたま市のガソリンスタンドへ、ガソリン16キロリットルと軽油4キロリットルを輸送中でした。運転手は事故によって腰を強く打ち重傷を負いました。積荷の火災は5時間半以上にわたり燃え続け、午前11時34分にようやく鎮火しました。

火災による熱は、熊野町ジャンクションの上下2層構造の橋梁に深刻な損傷を与えました。橋脚はコンクリートの一部が剥がれ、鉄筋が露出。上層の上り線では主桁が熱で変形し、床版に多数のひび割れが発生しました。路面は火災直上部で60～70cmも沈下しました。また、周辺の道路付属物も広範囲に焼損し、近隣マンションの外壁も火災の熱で焼ける被害が発生するなど、単独車両による事故としては国内史上最大規模の損害事故となりました。

復旧の状況

この事故の影響で、首都高速5号池袋線は北池袋 - 板橋JCT間の上下線、中央環状線は外回りが西新宿JCT - 板橋JCT間、内回りが板橋JCT - 西池袋間で通行止めとなりました。通行止め区間を迂回するために、一般道に降りて再度首都高速を利用する場合は、乗継割引措置が取られました。

事故発生の翌日には現地対策本部と本社対策本部が設置され、さらに翌日には本社災害復旧本部が設置されました。8月6日には事故車両の搬出が完了し、8月7日には仮復旧に向けた載荷試験が25トントラックを用いて行われました。この試験の結果を踏まえ、8月9日には5号池袋線の上下線が片側1車線で仮復旧しました。

本格的な復旧工事は、3ヶ月の工期を目途に24時間体制で進められ、橋脚の補強と2スパン40メートルにわたる橋桁の架け替えが行われました。工期短縮のために、様々な技術が導入されました。架設用トラスをリースし、鋼桁を大ブロックで撤去・架設。通常4週間かかるコンクリートの硬化時間を1週間に短縮する早強コンクリートの使用や、床板と高欄の一体施工などが用いられました。通常1ヶ月かかる鋼桁の製作も、メーカーとの協力により短期間で完了しました。これらの努力の結果、9月16日に中央環状新宿線外回りから5号線下りへのランプが復旧し、9月18日には5号線上りから中央環状新宿線内回りへのランプが復旧。暫定2車線で通行可能となり、事故発生から73日後の10月14日正午頃に全面復旧しました。

刑事裁判

2011年10月4日、東京地方裁判所は、運転手に対して業務上失火罪で禁錮2年・執行猶予5年の判決を言い渡しました。

損害賠償

首都高速道路は、この事故による損害総額を復旧工事費20億円と通行止めに伴う通行料金の逸失利益25億円、計45億円と発表しました。その後、運転手、多胡運輸（雇用者）、出光興産（発注者）、ホクブトランスポート株式会社（元請け）に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。さらに、多胡運輸が加入していた関東交通共済協同組合（関交組）に対しても日本高速道路保有・債務返済機構から損害賠償請求が提訴されました。

関交組に対する訴訟では、1審、2審ともに敗訴となり、7年分の利息を含め11億8000万円が支払われました。一方、首都高速道路が提訴した訴訟では、出光興産とホクブトランスポートの責任は認められず、運転手と多胡運輸のみに約32億8900万円の支払いを命じる判決が2016年7月14日に東京地方裁判所によって下されました。

多胡運輸は、2011年12月に本社不動産を売却するなど経営悪化が露呈し、2012年度に事業を停止していました。賠償訴訟での敗訴判決が出たため、2016年8月4日付けで前橋地方裁判所高崎支部より破産開始決定を受けました。負債総額は賠償額に相当する約33億円に上ります。

この事故による通行止めや一般道路渋滞の影響による経済的損失は、工学院大学とリバーベル株式会社の試算により、推定180億円以上とされています。

なお、この事故の約半年後の2009年 2月14日には、上り線の同じカーブで大型トレーラーの横転事故が発生し、運転手が死亡しています。

脚注

『Netway vol.81』2009年1月1日首都高速道路株式会社発行

外部リンク

5号線の復旧に関する情報首都高から皆様へ - ウェイバックマシン
* 5号線の復旧に関する情報プレスリリース - ウェイバックマシン

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