牧本英輔

牧本英輔：遅咲きの力士、その異色の軌跡

牧本英輔（まきもとえいすけ）は、1941年 8月13日、熊本県宇土市長浜町に生まれました。時津風部屋に所属した元大相撲力士で、本名も同じです。新十両時の四股名は轟亘（とどろきわたる）。身長181cm、体重150kgと恵まれた体格を持ち、左四つ、寄りを得意としていました。最高位は東前頭12枚目（1972年9月場所）で、角界関係者からは「マキさん」の愛称で親しまれていました。

相撲との出会いと入門

幼少の頃から相撲に親しんでいた牧本は、地元の中学校では相撲部に所属し、実家が農家であったため、中学卒業後は熊本農業高校に進学しました。高校の相撲部では3年時に九州大会で優勝するなど、その才能を発揮。時津風親方（元横綱・双葉山）から熱心な勧誘を受け、高校卒業と同時に時津風部屋に入門し、1960年3月場所に初土俵を踏みました。同期には、後の関脇・長谷川や前頭・嵐山らがいます。しかし、本人は後年、入門は周囲に促されたものだったと述懐しています。

十両昇進と幕内への挑戦

入門後、順調に番付を上げていった牧本は、1965年1月に十両へ昇進。しかし、その後は十両と幕下を2度往復する苦難を経験します。丸5年間幕下に甘んじた後、1971年11月場所で幕下優勝を果たし、4度目の十両昇進を決めました。その後、十両でも3場所勝ち越しを続け、1972年9月場所で念願の入幕を果たします。初土俵から76場所目、序ノ口から75場所目での新入幕は、当時としては大相撲史上最も遅い記録でした。

幕内での苦闘と晩年

新入幕の場所では、好成績が期待されましたが、序盤から星が伸びず3勝12敗と大きく負け越し、1場所で十両に陥落。翌11月場所でも大負けし、幕下に落ちてからは二度と十両に復帰することはできませんでした。1979年9月場所では三段目まで番付を下げ、元幕内力士の三段目陥落は当時珍しい出来事でした。しかし、その後も十両復帰を目指し土俵に上がり続け、1982年11月場所で引退を表明しました。

記録と人物像

牧本は序ノ口から引退まで、約22年半の間、一度も休むことなく相撲を取り続けました。現役在位136場所は、当時の大相撲記録です。41歳まで現役を続けたことや、幕下以下の総在位場所数が「121」という記録も残しており、その異色の経歴は多くの人々に印象を与えました。

昭和の時代、高齢で幕下暮らしを続ける力士は周囲から厳しい目で見られがちでしたが、牧本はその人間性が評価され、現役時代を通して多くの人々に応援されました。現役末期には商家との縁談もありましたが、断っています。引退相撲は、弟弟子の元小結・双津竜、元前頭4枚目・谷嵐との合同で行われました。

引退後は日本相撲協会に残らず、故郷の熊本に戻り、農業に従事しています。80代になっても杖をついているものの、健在であるという情報も伝えられています。

異色のエピソードと人物像

牧本は、西幕下2枚目に在った1969年11月場所、14日目の対戦で、時間一杯を勘違いし、塩を取りに行って土俵を割って敗れてしまったというエピソードがあります。40歳を過ぎても土俵に上がり続けた理由は、勝負の緊迫感にあったと語っています。

現役時代の趣味は読書で、料理本を参考にしてフランス料理や中華料理を作ることもありました。読んだ本は故郷に送っていたため、部屋に本が溜まることはなかったそうです。政治に関しても、石原慎太郎と小田実が防衛問題で激論している様子をメディアを通してよく見ていたそうです。

自身が大成しなかった要因として、入門する時に「横綱になる」という大きな夢を持っていなかったことを挙げています。現役末期には、幕下が場所ごとに貰っていた手当を主に書籍代に充てていたそうです。また、部屋の食事が美味しいので外食はあまりせず、カラオケでは演歌を歌っていたそうです。

主な成績と記録

通算成績：543勝530敗勝率.506
幕内成績：3勝12敗勝率.200
現役在位：136場所（※当時の大相撲記録）
幕内在位：1場所
連続出場：1073番（序ノ口以来無休、1960年5月場所-1982年11月場所）
各段優勝
幕下優勝：2回（1961年7月場所、1971年11月場所）
序ノ口優勝：1回（1960年5月場所）

改名歴

牧本英輔（まきもとえいすけ、1960年5月場所-?・1969年3月場所-1982年11月場所）
牧本英邦（まきもとひでくに、時期不明）
* 轟亘（とどろきわたる、1963年1月場所-1969年1月場所）

まとめ

牧本英輔は、決してエリート力士ではありませんでしたが、41歳まで現役を続けた不屈の精神と、その人間性で多くのファンを魅了しました。晩年まで相撲を愛し続けたその姿は、多くの人々に感動と勇気を与え、記憶に残る力士の一人です。

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