牧田吉明

牧田吉明：波乱に満ちた生涯

牧田吉明（1947年3月7日 - 2010年5月29日）は、日本の政治活動家で、その過激な行動から「爆弾屋」という異名を持ちました。アナーキスト、新左翼、そして民族派というように、その思想は変遷を重ね、常に社会の既成概念に挑戦し続けました。

生い立ちと学生時代

三菱重工業の社長で「牧田天皇」と呼ばれた牧田與一郎の末子として静岡市に生まれた牧田吉明は、幼少期を東京都新宿区で過ごしました。昆虫好きの理科少年でしたが、次第に反抗的な性格をあらわにします。三菱財閥系の成蹊中学校に入学すると、テニス部、生物部を経て登山部に所属します。成蹊高校時代には学校への反抗的な態度が目立ち、成蹊大学への推薦を唯一拒否されました。しかし、一般入試で同大学文学部に合格し、入学と同時に社会主義学生同盟に参加、政治活動に身を投じます。

大学自治会の執行委員として文学部長と衝突し、国鉄運賃値上げ反対集会で機動隊員に暴行して逮捕。その後、風月堂やどん底といった新宿の文化的な場所に入り浸り、中上健次と交流。吉本隆明の著作を愛読し、詩作にも励むなど、文学的な素養も持ち合わせていました。しかし、1966年には失恋をきっかけに大学を退学、四国遍路の旅に出ます。退学届は不受理となり、無届ビラや立て看板など数々の学則違反行為により、無期停学処分を受けます。大学側と闘争を続け、除籍処分を受けた後も、ハンストを敢行するなど、激しい抵抗を続けました。

アナーキストとしての活動

アナーキスト組織背叛社に参加し、フーテン生活を送る中、1968年には新宿駅西口で「爆弾」と大書した張り子を背負ってハプニングを起こすなど、過激なパフォーマンスを繰り広げました。フーテン仲間との集会でカンパを募りながら雲隠れしたとして「六・二九事件」の首謀者と見なされることもありました。また、東大本郷キャンパスで浜尾新の銅像にペンキを塗るなど、過激な行動はエスカレートしていきます。しかし、当時牧田を撮影していたカメラマンの福島菊次郎は、牧田を「生真面目で純粋なボンボン」と評しています。

金嬉老逮捕事件の際には、新宿駅西口でダイナマイトのオブジェを身体に縛り付け、金嬉老の声を流すパフォーマンスを行いました。その後、書店で万引きした際には「警察官の調書の書き方の中に彼らの意識構造を発見するため」と述べるなど、その行動は常軌を逸していました。成蹊大学との和解を経て、日本テレビの番組に出演、過激な企画を立てるなど、メディアにも積極的に関わるようになります。

ピース缶爆弾事件と逃亡生活

背叛社火薬暴発事件をきっかけに、牧田は関西に逃亡し、京都の左翼サロンに出入りします。永山則夫連続射殺事件の容疑者として捜査を受けるも、後に誤認であることが判明。1969年には立命館大学で民青と闘争を展開し、リンチを受け逮捕されました。

その後、父親の資金でライブスペース「ステーション'70」を設立。阿部薫、吉沢元治、高柳昌行など、当時のアンダーグラウンドシーンのアーティストに活動の場を提供します。三上寛を初めて出演させたのも牧田でした。しかし、経営はすぐに赤字となり、閉店を余儀なくされます。その後、広告会社を設立するも、大麻所持で逮捕され、懲役刑を受け、会社は解散となります。

結婚と農場経営、そして晩年

裁判中に活動家と結婚し、長野県に移住。民宿「ぐゎらん洞」を経営するも離婚。その後、東京で自然食を販売。1980年代以降は新右翼に接近し、野村秋介と交流を持ちます。

再婚後、小樽でブドウ園を開き、「山猫農場」としてワイン製造に取り組みます。小樽市のゴミ問題に抗議してハンストを行い、市役所の道路を封鎖したことで逮捕されました。風の会の参院選に推薦されるも、内部反対で出馬を断念しています。

事業に失敗し離婚後、札幌で居酒屋を経営しますが、これも失敗。車上生活を経て大本教に入信、京都に移住します。晩年は岐阜県の御母衣ダム湖畔で自炊生活を送り、長野県のホテルで庭師として働いていましたが、解雇された後は生活保護を受け、病気に苦しみながら亡くなりました。

ピース缶爆弾事件の真相

牧田は、奥多摩の工事現場からダイナマイトを盗み出し、共産同叛旗派に爆弾闘争を提案。このダイナマイトを使って製造された爆弾は、京都地方公安調査局爆破事件などのテロ事件で使用されました。一連の事件で増淵利行らが逮捕・起訴されるも、牧田は公判中に「自分が真犯人だ」と名乗り出ます。しかし、裁判では牧田の証言は不採用となり、増淵らは無罪となりました。この事件は、牧田の特異な行動を示すエピソードとして、今も語り継がれています。

牧田吉明の思想と人物像

牧田の思想はアナーキズム的でありながら、民族派的な側面も持ち合わせていました。田原総一朗は、牧田を「左翼というよりは、むしろ民族派的な体質」と評しています。牧田は、自身の活動を「実家からの資金があったからできた」と語り、金銭に対する独特の割り切りを見せていました。また、冤罪で起訴された人々への同情は一切なく、過激派である以上、弾圧されるのは当然だと考えていました。

牧田吉明は、その生涯を通して、社会の既成概念に挑戦し、反体制的な活動を続けた異色の人物でした。彼の行動は、時に常軌を逸脱し、多くの人々を巻き込みましたが、その生き様は、現代社会においても問いかけを投げかけ続けています。

もう一度検索