猪熊教利

猪熊教利：美貌と乱行の果てに散った公家

猪熊教利（いのくま のりとし）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて生きた公家です。権大納言・四辻公遠の子として生まれ、当初は高倉範遠と名乗っていましたが、様々な経緯を経て山科家を相続し、山科教利と改名しました。

しかし、後に山科家当主の座を降り、猪熊家を興すこととなります。教利は天皇近臣として後陽成天皇に仕え、内侍所御神楽で和琴を奏でるなど芸道にも通じていました。その一方で、教利は稀代の美男子としても知られ、彼の髪型や帯の結び方が「猪熊様」と呼ばれ、京の都で流行するほどの人気ぶりでした。

波乱に満ちた生涯

しかし、その美貌とは裏腹に、教利は女癖の悪さでも知られていました。「公家衆乱行随一」と称されるほど女性関係は派手で、慶長12年（1607年）には女官との密通が発覚し、大坂へ出奔する騒ぎを起こしています。その後も素行は収まらず、多くの公卿を自宅に招き、女官との不義密通を重ねていたと伝えられています。

そして慶長14年（1609年）、ついに「猪熊事件」が発覚します。この事件は、教利が複数の女官と公家衆との密通を手引きしていたというものでした。激怒した五後陽成天皇は幕府に処分を一任し、教利は逮捕令が出され、全国に指名手配される身となります。

逃亡、そして最期

教利は、当時かぶき者として知られた織田頼長の教唆を受け、西国へ逃亡。一説には朝鮮への亡命を企てていたとも言われています。しかし、逃亡中に家臣の裏切りにあい、日向国で捕えられました。

京都へ護送された教利は、二条に収監された後、慶長14年10月17日に常禅寺で斬首刑に処されました。享年27歳という若さでした。

子孫とその後

教利の子孫は武士となり、外戚の姓である生駒氏を称して高松藩生駒家に迎えられました。その後、生駒家が改易となると、高松藩松平家に仕え、生駒矢柄家と呼ばれました。

猪熊教利は、その美貌と才能、そして奔放な生き様で、人々の記憶に残る人物です。しかし、その破滅的な生き方は、多くの人々に悲しみと混乱をもたらしました。猪熊事件は、朝廷と幕府の関係にも影響を与え、その後の公家社会にも大きな爪痕を残したと言えるでしょう。

彼の生涯は、美しさだけでは幸せにはなれない、ということを私たちに教えてくれます。また、一度過ちを犯してしまうと、そこから抜け出すことがどれほど難しいか、ということも教えてくれるでしょう。

教利の死後、山科家や四辻家では、彼の存在を抹消しようとする動きがありました。しかし、全ての記録を抹消することはできず、現在も彼の名前は歴史の中に残っています。罪人として処刑された教利ですが、その波乱万丈な生涯は、今もなお人々の関心を集めています。

官歴

天正13年（1585年）5月12日：従五位下
天正20年（1592年）正月25日：侍従
慶長2年（1597年）正月5日：従五位上
慶長5年（1599年）正月2日：左近衛少将、2月10日：正五位下
慶長6年（1601年）3月19日：武蔵権介
慶長14年（1609年）10月17日：斬刑

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