猿投町

猿投町

猿投町は、かつて愛知県西加茂郡に属していた自治体です。昭和28年（1953年）に村から町制を施行しましたが、昭和42年（1967年）4月1日には豊田市に編入され、その歴史に幕を閉じました。現在の豊田市の北部に位置する地域にあたります。

地理と自然

町域は地理的には岡崎平野の北端にあたり、同時に三河高原の北西端に位置しています。地域の中央部を西三河地方最大の河川である矢作川が南へ貫流し、それに合流する伊保川、籠川、力石川、御船川といった支流群が沖積低地を形成しています。これらの低地は古くから水田地帯として利用され、周囲を取り囲む丘陵地は畑地として活用されてきました。古い集落は、見晴らしの良い丘陵上や、丘陵地と沖積低地が接する境界部に立地しています。

町域の大部分、面積の約66パーセントは山林で占められています。最高峰は標高629メートルの猿投山であり、町はこの山の南麓に広がっていました。猿投山は愛知高原国定公園の一部にも指定されています。一方で、町域の最低標高地点は荒井地区で20メートルでした。猿投山周辺には古墳が多く点在し、三河国三宮とされる式内社、猿投神社が鎮座するなど、この地域が古くから開けていたことを示しています。

越戸地区には、矢作川の美しい渓谷である勘八峡があり、景勝地として知られています。昭和2年（1927年）には、『新愛知新聞』によって「愛知新十名所」の第6位に選ばれるなど、その景観は古くから高く評価されていました。

かつて、御船、山ノ神、西枝下などでは耐火粘土や珪砂などの鉱山資源が採掘されていましたが、高度経済成長期には埋蔵量の減少に伴い、多くの鉱山が閉山しました。

河川の利用

町内を流れる主要河川である矢作川は、町域内の流路長が14.0キロメートル、流域面積は107.8平方キロメートルに及びます。支流のうち、伊保川は流路長10.0キロメートル、流域面積31.5平方キロメートル、籠川は流路長7.5キロメートル、流域面積23.5平方キロメートル、力石川は流路長6.0キロメートル、流域面積9.3平方キロメートル、御船川は流路長2.2キロメートル、流域面積5.0平方キロメートルです。

矢作川には水力発電所として越戸発電所が現存し、かつて御船川には御船発電所がありました。水運も盛んに行われ、下流の百々（どど）より南では帆船が、百々より上流では木材などを運ぶ筏流しが行われていました。また、高度経済成長期には、矢作川の川底から手掘りやポンプ船による砂の採取も行われました。現在も、矢作川やその支流からは農業用水が取水され、地域の農業を支えています。

歴史の歩み

江戸時代末期、この地域は尾張藩、吉田藩、西尾藩の各藩領に加え、幕府直轄領、旗本領、寺社領が複雑に入り組んでいました。

近代以降、町村合併が進み、明治22年（1889年）には広沢村、上郷村、富貴下村が誕生しました。その後、明治39年（1906年）7月1日、広沢村と上郷村、および富貴下村の一部が合併して猿投村が成立しました。この頃には矢作川に飯田街道の平戸橋が架けられ、明治30年代には平戸橋と名古屋を結ぶ乗合馬車も開通しています。

大正期には鉄道が開通し、大正11年（1922年）に三河鉄道が越戸駅まで、大正13年（1924年）には猿投駅まで、昭和3年（1928年）には西中金駅までそれぞれ延伸され、地域の交通網が整備されました。昭和4年（1929年）には越戸発電所が完成しています。

昭和28年（1953年）4月1日、猿投村は町制を施行し、猿投町となりました。当時の人口は約11,000人で、西加茂郡内では挙母町（現在の豊田市中心部）に次ぐ規模でした。昭和30年（1955年）3月1日には、町村合併促進法に基づき、隣接する保見村と石野村を編入しました。

町制施行後、伊勢湾台風（昭和34年、1959年）による甚大な被害（死者9人、全壊389戸など）や、全日空バイカウント機墜落事故（昭和37年、1962年）、猿投ダンプ事故（昭和41年、1966年）といった大きな出来事も発生しました。特に猿投ダンプ事故は、幼い命が失われた痛ましい事故であり、その後の歩道整備や「ダンプ規制法」制定につながる社会的な影響を与えました。

昭和41年（1966年）には愛知工業大学が開学するなど、教育機関の整備も進められました。

そして、昭和42年（1967年）4月1日、猿投町は豊田市に編入され、その自治体としての歴史を終えました。編入直前の人口は22,983人でした。

豊田市編入後には、西三河地方最大規模の住宅団地である保見団地（昭和50年、1975年入居開始）が造成されたほか、中京大学豊田キャンパスなどの教育機関や、名鉄豊田線、愛知環状鉄道線、愛知高速交通東部丘陵線（リニモ）といった新たな鉄道路線が開業し、地域は大きく変貌を遂げています。

教育機関

猿投町として存在した時期には、地域住民の学びを支える複数の教育機関がありました。

高等学校
愛知県立猿投農林高等学校（明治39年、西加茂郡立農学校として開校）

中学校
猿投町立西部中学校（昭和22年、保見村立保見中学校として開校）
猿投町立北部中学校（昭和22年、猿投村立猿投北部中学校として開校）
猿投町立南部中学校（昭和22年、猿投村立猿投南部中学校として開校）
猿投町立東部中学校（昭和22年、石野村立石野中学校として開校）

小学校
猿投町立伊保小学校
猿投町立大畑小学校
猿投町立加納小学校
猿投町立青木小学校
猿投町立西広瀬小学校
猿投町立東広瀬小学校
猿投町立中金小学校
猿投町立上鷹見小学校
猿投町立藤沢小学校

※豊田市編入後に、中京大学豊田キャンパス、愛知県立豊田高等学校、杜若高等学校、豊田大谷高等学校、南山国際中学校・高等学校などが旧町域やその周辺に開校しています。

交通

猿投町は、南は自動車産業が盛んな豊田市（旧挙母市）と、北西は窯業で知られる瀬戸市に接しており、古くから両市を結ぶ交通の要衝でした。特に中馬街道と呼ばれる街道は、近世において地域を結ぶ重要なルートとして賑わいました。町域には名鉄三河線が通り、以下の駅が設置されていました。

西中金駅、三河広瀬駅、枝下駅、三河御船駅、猿投駅、平戸橋駅、越戸駅

豊田市編入後、旧町域とその周辺地域には、名鉄豊田線（上豊田駅、浄水駅）、愛知環状鉄道線（四郷駅、貝津駅、保見駅、篠原駅、八草駅）、愛知高速交通東部丘陵線（リニモ）（陶磁資料館南駅、八草駅）といった鉄道路線が開業し、広域的な交通ネットワークが形成されています。

文化と名所

猿投町には、古くから受け継がれる伝統文化や多くの歴史的な名所、自然景観地があります。

主な文化・芸能
猿投まつり（猿投神社の例祭、毎年10月）
猿投棒の手（愛知県指定無形民俗文化財）

昭和30年代の映画最盛期には、猿投劇場、上伊保劇場という二つの映画館が存在し、町民の娯楽拠点となっていました。

主な名所・旧跡・観光スポット

猿投神社（猿投山麓、三河国三宮）
兵主神社（荒井）
灰宝神社（越戸）
野神社（野口）
広澤神社（猿投）
射穂神社（上伊保）
八柱神社（国附）
永沢寺（篠原、曹洞宗）
永福寺（上伊保、黄檗宗）
弘誓院（加納、浄土宗、法然三河二十五霊場）
如意寺（力石、真宗大谷派、本堂は登録有形文化財）
千鳥寺（千鳥、曹洞宗）
広済寺（広瀬、曹洞宗、三宅氏菩提寺）
恩真寺（元山中、曹洞宗、鈴木正三墓所）
猿投山（標高629m）
勘八峡（景勝地）
さなげカントリークラブ（ゴルフ場）
東名古屋カントリークラブ（ゴルフ場）
三好カントリー倶楽部（猿投町と三好町にまたがるゴルフ場）

主な出身者

月山左一郎（教育者）
浦野錠平（政治家、猿投村長、衆議院議員など）
本多松三郎（実業家、政治家、西加茂郡立農学校創立に寄与）
大岩勇夫（弁護士、政治家、名古屋市長など）
清水鎮平（政治家、石野村長、鎮平橋の名の由来）
梅村源次郎（政治家、西加茂郡会議員、広梅橋脇に頌徳碑）
大岩鉄雄（政治家、猿投村長）
前田栄次郎（実業家、前田郷創業者、前田公園建設）
岡本実太郎（官僚、弁護士、政治家、衆議院議員）
浦野謙朗（政治家、猿投村長、衆議院議員、尾三バス設立に寄与）
本多鋼治（実業家、政治家、衆議院議員）

参考文献

猿投町誌編集委員会『猿投町誌』（1968年）

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