王将 (曲)

王将

「王将」（おうしょう）は、日本の歌手、村田英雄によって1961年11月にシングルリリースされた楽曲です。この曲は、村田英雄のキャリアにおいて最大の成功を収めた作品として知られ、その売り上げは最終的に300万枚を超える驚異的な数字を記録しました。これは「戦後初のミリオンセラー」とも称されるほどの爆発的な人気でした。

制作背景

本楽曲の作詞は日本詩壇の大家である西條八十、作曲は数々の名曲を生み出した船村徹が手がけました。歌詞は、明治から昭和にかけて大阪を中心に活躍した孤高の将棋棋士、坂田三吉をモデルとしています。元々は、1961年9月に発売された歌謡浪曲のLPアルバムに挿入歌として収められていたものでしたが、その反響を受けて同年11月にシングルカットされました。当初から関西地方で好評を博していました。

シングルの制作に至るまでには、当時の村田英雄がなかなかヒットに恵まれなかったという事情がありました。所属レコード会社である日本コロムビアのディレクター、斎藤昇は、村田を伴って作詞を西條八十に依頼するため西條邸を訪れます。しかし、当時の西條は美空ひばりなど女性歌手向けの作品を多く手掛けており、「男の歌は書けない」と一度は依頼を断られます。それでも村田が諦めずに足繁く西條邸に通い続けた結果、ついに西條は作詞を引き受け、「吹けば飛ぶよな将棋の駒に」という印象的な冒頭の一節が生まれました。この最初のフレーズが完成してからわずか20日後には、全ての歌詞が完成したといいます。

作曲は、日本コロムビア専属だった船村徹に託されました。船村は完成したばかりの歌詞を手に、故郷である栃木県へと帰り、熟考を重ねてメロディーを生み出しました。船村自身は後に「詞の一部を変えた際に、自然とあのメロディーが湧き上がってきた」と語っています。また、「王将」の特徴的なイントロは、船村が楽曲のレコーディング前に宇都宮競輪場で耳にした、最終周回を知らせる鐘の音（打鐘、ジャン）から閃きを得たものだという逸話が残っています。

空前のヒットと評価

「王将」が全国的な大ヒットを記録する決定的な契機となったのは、村田英雄が1961年末の第12回NHK紅白歌合戦にこの曲で初出場したことでした。テレビを通じて日本全国にその力強い歌声と楽曲が届けられ、人気が爆発しました。村田はその後も、第13回（1962年）、第20回（1969年）、第40回（1989年）と、合計4度にわたって紅白歌合戦で「王将」を歌唱しています。本人は特に3番の歌詞にある「何が何でも勝たねばならぬ」の一節を好んでおり、紅白本番では「絶対に白組が勝つ」という自身の心意気を込めて、1番と3番を組み合わせて歌ったと伝えられています。

この楽曲の成功により、村田英雄は1962年の第4回日本レコード大賞において特別賞を受賞しました。レコードの売り上げは、シングルカットから半年で30万枚を突破し、最終的な販売枚数は300万枚を超え、戦後日本の音楽史上における金字塔の一つとなりました。

1983年に第一勧業銀行が東京都内のサラリーマンを対象に行った「あなたの忘れられない心の歌は……?」というアンケート調査では、本楽曲が見事1位を獲得しており、その時代における楽曲の浸透度と共感度の高さを示しています。また、この曲の大きな反響を受け、作詞の西條八十、作曲の船村徹、歌手の村田英雄の三氏は日本将棋連盟からアマチュア初段を授与されました。さらに、同名の戯曲の原作者である北條秀司には、アマチュア四段が贈られています。作曲者の船村徹は、将棋文化への貢献が評価され、2009年には日本将棋連盟から第16回大山康晴賞特別賞を受賞しています。

影響と利用

「王将」のヒットは、その後の文化作品にも影響を与えました。この曲は、翌年の1962年に公開された三國連太郎主演の同名映画『王将』の主題歌として使用されました。さらに、1963年の続編映画『続・王将』（主演:三國連太郎）でも引き続き主題歌に採用されています。時代は下り、1973年に勝新太郎主演で再び映画化された『王将 (1973年の映画)』でも、主題歌として本楽曲が使われました。

また、ヨットでの単独太平洋横断で知られる冒険家の堀江謙一も、孤独な航海の最中に寂しさを紛らわせるために「王将」を歌ったというエピソードが残されています。

本シングルのB面には、同じく西條八十作詞、船村徹作曲による「小春月夜」が収録されています。

主なカバー

「王将」は世代を超えて愛され、多くの歌手によってカバーされています。

藤圭子 (1979年)
天童よしみ (2011年)
氷川きよし (2012年)
三山ひろし (2015年)
西方裕之 (2016年)
福田こうへい (2017年、NHK紅白歌合戦でも披露)
* 島津亜矢 (2020年)

など、実力派の演歌・歌謡曲歌手によって歌い継がれています。

「王将」は、そのドラマティックな歌詞と力強いメロディーで、日本の大衆音楽史に確固たる地位を築いた不朽の名作と言えるでしょう。

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