王紀

明代の官僚・政治家、王紀の生涯

王紀（おう き、1558年9月5日 - 1625年2月3日）は、明代末期の官僚・政治家です。字は惟理、号は憲葵と称しました。解州芮城県（現在の山西省）の出身です。

立身と直言

万暦17年（1589年）に進士に及第し、官界入りを果たしました。当初は池州府の推官として地方行政に携わりましたが、後に中央に召されて祠祭主事、儀制郎中と昇進しました。当時の万暦帝は、寵愛する鄭貴妃の子、朱常洵を皇太子に立てようと画策しており、嫡長子である朱常洛を王に封じようとしたため、朝廷内では大論争となりました（国本の争い）。

万暦帝はなかなか皇太子を決定しようとしませんでしたが、万暦29年（1601年）王紀は、皇帝に対し、朱常洛を皇太子に立てるよう直言しました。その結果、ついに朱常洛が皇太子に立てられると、王紀は光禄寺少卿に抜擢され、その功績を称えられました。しかし、万暦30年（1602年）には病を理由に官を辞任しました。

地方官としての活躍

万暦41年（1613年）、王紀は太常寺少卿から右僉都御史に抜擢され、保定諸府の巡撫として地方行政に復帰しました。当時、各地では連年のように洪水や旱魃が発生し、深刻な飢饉に見舞われていました。王紀は、飢饉対策のための法整備を行い、民衆の救済に尽力しました。

また、税監の張曄が諸税の免除中止を求めた際には、二度にわたって上疏し、その不当性を訴えました。しかし、張曄は皇帝の勅命を盾に免税を中止したため、王紀は張曄を弾劾しましたが、万暦帝からの返答はありませんでした。

万暦45年（1617年）には、戸部右侍郎に転任し、総督漕運と鳳陽諸府の巡撫を兼任しました。ここでも凶作に見舞われたため、王紀は民衆の救援に全力を尽くしました。泰昌元年（1620年）8月には、北京に召還され、戸部尚書に任命され、倉場を監督しました。

奸臣との対立と失脚

天啓2年（1622年）2月、王紀は黄克纘の後任として刑部尚書に就任しました。当時、泰昌帝の死因をめぐり、服毒死事件（紅丸の案）が議論される中、王紀は侍郎の楊東明とともに上疏し、方従哲の官職剥奪を求めました。

また、魏忠賢の仲間である徐大化が、給事中の周朝瑞と恵世揚を弾劾した際には、王紀は徐大化を弾劾し、その批判は大学士の沈㴶にも及んだため、徐大化は罷免されました。しかし、このことで沈㴶と魏忠賢は王紀を深く恨むようになりました。

御史の楊維垣が沈㴶と結託して王紀を陥れようとしたため、王紀は沈㴶と魏忠賢を、北宋末の奸臣である蔡京と童貫になぞらえて非難しました。客氏と魏忠賢がこのことを天啓帝に訴えたところ、天啓帝は王紀の言動を煩わしいとし、譴責しました。さらに、沈㴶は王紀が熊廷弼と佟卜年を擁護したとして弾劾しました。その結果、7月には王紀は官職を剥奪され、庶民に落とされてしまいました。

大学士の葉向高、何宗彦、史継偕らが王紀を救おうと上疏しましたが、いずれも天啓帝に聞き入れられることはありませんでした。

死と名誉回復

天啓4年12月26日（1625年2月3日）、王紀は失意のうちに67歳でこの世を去りました。しかし、崇禎元年（1628年）、その名誉は回復され、生前の官職に復帰し、少保の位が追贈されました。諡は荘毅とされました。

王紀は、明末の混乱期にあって、直言を恐れず、民衆のために尽力した官僚でした。その生涯は、当時の政治の腐敗と、奸臣たちの横暴を映し出す鏡と言えるでしょう。

子女

王景旦

参考文献

『明史』巻241 列伝第129

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