瑟

瑟（しつ）とは

瑟（しつ、拼音: sè）は、古代中国の伝統的な撥弦楽器であり、ツィター属に分類されます。長方形の木製胴体に25本ほどの弦が張られ、音高は弦と胴の間に設置された駒によって調整されます。この楽器は、古筝と似ているところがあり、非常に多くの弦を持つため、独特の音色と豊かな表現が可能です。瑟は「八音」の中の一つとされ、特に後世には祭祀音楽や雅楽専用としての役割を担ってきました。

歴史

瑟の起源は非常に古く、文献上では古琴と共に「琴瑟」として言及されており、弦楽器の中でも古代から存在していることが証明されています。『詩経』や『書経』などの先秦文献においても、その存在が確認されています。『礼記』の明堂位篇には瑟の2つの種類、大瑟と小瑟についての記述があり、瑟にはいくつかの形態が存在したことがわかります。

考古学的資料の中では、春秋晩期から戦国初期の湖南省長沙瀏城橋一号楚墓から出土した瑟が特に有名です。その多くは25弦ですが、24弦や23弦といったものも見つかっています。また、馬王堆漢墓から出土した瑟は、琴柱が明確に配置されており、五音音階に沿った調弦がなされていたと考えられています。

隋・唐時代には燕楽の清楽の伴奏楽器として瑟は存続しましたが、宋代以降は祭りや儀式で使用される雅楽の専用楽器となりました。この時期、南宋の音楽家姜夔は瑟の使い方や制度を整備しました。

元の時代には、熊朋来によって『瑟譜』という6巻からなる著作が1277年に出版され、これは瑟に関する初の専門書とされています。この書では各弦を黄鐘から応鐘までの十二律に対応させる試みがなされましたが、姜夔の方式とは異なるものでした。明の朱載堉もさらに進んだ研究を行い、1560年に『瑟譜』の10巻を著しました。

日本への伝来

日本にも瑟が伝来しており、正倉院に瑟の一部が保存されていますが、現在の雅楽においては使用されていないようです。明楽の瑟の形態は14弦を持つものでした。

伝説

瑟の起源については、多くの伝説が存在します。『呂氏春秋』には、炎帝の時代に5弦の瑟が作られ、堯の時代に15弦、舜の時代には23弦に増えたという話があります。また『史記』には、かつて50弦であった瑟が黄帝によって半分に割られ、25弦に調整されたという伝承があります。さらに、伏羲が瑟を作り出したとも言われています。

このように瑟は古代から現代に至るまで、多くの文化的背景を持ちながら発展してきた楽器です。音楽の歴史や伝統を知る上で、瑟の研究は重要な位置を占めています。

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