田中省三

田中 省三（たなか せいぞう）

安政5年1月7日（1858年2月20日）に大隅国囎唹郡福山郷福山村小廻（現在の鹿児島県霧島市福山町福山）に生を受けた田中省三は、明治から大正期にかけて実業家および政治家として活躍した人物です。衆議院議員を一期務めた経歴を持ちます。

幼少期には町田実有に師事して漢学を修め、明治9年（1876年）に福山小学校を卒業しました。同年、運命的な出来事が彼を待ち受けていました。西南戦争において西郷軍に従軍した彼は、宮崎で官軍の捕虜となり、細島へ流刑に処されました。しかし、後に罪を赦されて故郷へ戻ることが許されます。

帰郷後の明治15年（1882年）、鹿児島師範学校を卒業。福山小学校で教師として教鞭を執りました。明治18年（1885年）には、同郷で当時石川県庁に勤務していた川上親晴の推薦を受け、能登半島の小学校長に就任します。およそ一年で校長職を辞した後、奈良県五条の看守長や大阪地方裁判所の書記など、官吏としての職務を経験しました。

官吏としてのキャリアを積んだ後、田中省三は実業界へと身を投じます。船舶、織物、醸造といった多様な事業を手掛け、その手腕を発揮しました。明治27年（1894年）には、大阪の著名な豪商であった福永正七が経営する福永商店に勤めます。やがて独立して海運業を興し、日露戦争や第一次世界大戦といった時代の大きな変動が生んだ需要を的確に捉え、事業を大きく発展させました。実業家としての成功は多岐にわたり、様々な企業の要職を歴任しています。

海外貿易 専務取締役
日本海上運送火災保険 営業部長兼会計部長
神戸海上運送火災保険 常務取締役
共同漁業 取締役
南隅軽便鉄道（後の大隅鉄道） 取締役
播磨造船（現在のIHI） 監査役
* 日本船主同盟会 理事

といったように、彼は海運や保険、鉄道、造船など、多岐にわたる産業分野で重要な役割を果たしました。

実業界での成功を背景に、田中省三は政治の世界にも足を踏み入れます。大正4年（1915年）3月の第12回衆議院議員総選挙において、立憲政友会の強固な支持基盤を持つ鹿児島県大島選挙区から、あえて無所属候補として立候補しました。政友会鹿児島県支部からの圧力がありながらも当選を果たし、衆議院議員として一期を務めました。当選後は公友倶楽部、次いで公正会に籍を置きました。

衆議院議員を退いた後、彼は大阪市会議員も務めましたが、政治家としての晩年には不遇もありました。大正7年（1918年）、八幡製鉄所長官を務めていた押川則吉への贈賄容疑により有罪判決を受けます。この事件によって勲四等瑞宝章を剥奪されるという事態に至りました。これ以降、彼は再び実業界での活動に注力することとなります。

激動の時代を生き、多様なキャリアを歩んだ田中省三ですが、故郷への深い思いも持ち続けていました。郷里の発展と地元の若者たちの育成を願い、私財を投じて私立福山中学校（現在の鹿児島県立福山高等学校）を創設しました。教育事業への貢献は、実業家・政治家としての顔とはまた異なる、彼の故郷に対する恩返しの精神を示すものでした。

大正14年（1925年）6月29日、その波乱に富んだ生涯を閉じました。

養子に警察官僚や福山町長を務めた田中省吾（長女まつ江の婿）がいます。

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