大隅鉄道

大隅鉄道：大隅半島の軽便鉄道の歴史

大隅鉄道は、かつて鹿児島県の大隅半島で運行されていた軽便鉄道です。その前身である南隅軽便鉄道の設立から、国有化を経て廃止されるまでの歴史を詳細に解説します。

起源と設立

1903年、鹿児島県で最初の鉄道が鹿児島 - 国分（後の隼人）間に開通したことが、県内各地での鉄道敷設の動きを加速させました。大隅半島では、地域の中心地である鹿屋と沿岸部を結び、鹿児島湾の航路を通じて鹿児島市との連携を強化する目的で、1911年2月、岩崎栄二を中心とするグループが鉄道敷設を申請しました。

当初の計画では、肝属郡花岡村古江と鹿屋村中名間を結ぶ予定でしたが、測量の結果、急勾配やトンネル建設の必要性が判明し、当初の資金計画では全線建設が困難となりました。そのため、計画を変更し、高須を経由するルートに変更、高須 - 鹿屋間で暫定的に開業することになりました。

この路線建設のため、南隅軽便鉄道株式会社が設立されました。設立日には諸説ありますが、1911年5月という説が有力です。本社は登記上は花岡村古江に置かれましたが、実際の業務は鹿児島市内の支店で行っていました。設立当初の社長は岩崎栄二で、後に衆議院議員となる平田禎も大株主でした。

路線の開通と延伸

1913年11月、経路変更が認可され、高須 - 鹿屋間の建設工事が開始されました。1915年3月に路線が完成し、7月11日に開業しました。開業当初の区間は、高須から野里、田崎を経由して鹿屋に至る8.7kmでした。建設費は約22万円でした。

開業後、社長は肥後幸盛に交代し、肥後は鹿屋以遠への延伸を計画しました。1916年6月、南隅軽便鉄道は会社名を大隅鉄道株式会社に変更。1917年には資本金を36万円に増強しました。1920年12月には鹿屋 - 高山間が、1921年8月には高山 - 串良間が開通しました。

1923年12月には、当初計画の起点であった古江 - 高須間が開通し、当初の計画区間が完成しました。この区間の建設費は約33万円で、県と郡からの補助金も活用されました。

経営状況と国有化

古江までの路線完成により、大隅鉄道の業績は大きく改善しました。しかし、昭和初期の不況や自動車輸送の進出、国鉄の志布志線延伸の影響を受け、経営は再び困難になりました。そのため、国鉄への移管を目指す動きが活発化しました。

1935年6月1日、大隅鉄道は国に買収され、国鉄古江線となりました。買収額は548,950円でした。買収時の最大の株主は、和歌山県の事業家である南楠太郎でした。

国有化後の変遷

国有化後、国鉄は志布志 - 串良間を延伸し、大隅鉄道の路線を国鉄標準の1067mm軌間に改軌しました。この際、路線の付け替えも行われ、古江 - 高須間ではトンネルを掘って直線的な線形に変更しました。鹿屋駅もスイッチバックを解消するためにΩ状に線路を敷設し直しました。その後、1972年に国分まで全線が開通し大隅線となりましたが、1987年に全線が廃止されました。

年表

1911年
2月：古江 - 鹿屋間鉄道免許申請
10月7日：免許交付
1912年
5月1日：南隅軽便鉄道株式会社設立
1913年
7月：高須経由に経路変更申請
11月22日：経路変更認可、高須 - 鹿屋間着工
1915年
3月：高須 - 鹿屋間路線完成
7月11日：高須 - 鹿屋間開業
12月：鹿屋 - 串良 - 志布志延長免許申請
1916年
2月19日：鹿屋 - 串良間免許交付
6月13日：大隅鉄道株式会社に改称
1920年
12月23日：鹿屋 - 高山間開業
1921年
8月11日：高山 - 串良間開業
1923年
12月19日：古江 - 高須間開業
1935年
6月1日：国が買収し古江線となる

路線データ

路線距離：古江 - 串良間 31.5km
駅数：17駅（国有化直前時点）
軌間：762mm
動力：蒸気および内燃併用
最急勾配：20パーミル
最小曲線半径：100m

車両

1925年4月時点で、蒸気機関車5両、客車10両、有蓋貨車5両、無蓋貨車34両が在籍していました。1930年にはガソリンカー2両を導入し、主力として運用しました。

蒸気機関車

1号・2号：深川造船所製のB形タンク機関車。
3号：川崎造船所製のC形タンク機関車。
4号・5号：日本車輌製造製のC形タンク機関車。

ガソリンカー

カホ1形：日本車輌製造製のガソリンカー。

客貨車

客車：二等三等合造ボギー客車2両、三等車8両。
貨車：有蓋貨車5両、無蓋貨車34両。

運行

高須 - 鹿屋間開業時は1日5往復、全線片道40分で運行していました。国有化直前のダイヤでは、古江 - 串良間の全線通し列車が1日7往復で、ガソリンカーと蒸気機関車が使用されていました。全線の所要時間はガソリンカーで約1時間40分、蒸気機関車で約2時間でした。

駅一覧

古江駅 - 船間駅 - 荒平駅 - 金浜駅 - 高須駅 - 滝ノ観音駅 - 野里駅 - 田崎駅 - 鹿屋駅 - 下田崎駅 - 川西駅 - 永野田駅 - 姶良駅 - 論地駅 - 高山駅 - 下小原駅 - 串良駅

国有化時に高須、野里、川西、高山の各駅は「大隅」を冠して改称されました。また、船間、金浜、滝ノ観音、田崎、下田崎の各駅は廃止されました。

参考文献

臼井茂信「軽便機関車誌 国鉄狭軌軽便線16」『鉄道ファン』
久木田末夫『鹿児島の鉄道・百年』
湯口徹『内燃動車発達史 上巻:戦前私鉄編』
鹿屋市史編集委員会 編『鹿屋市史』
鹿屋町教育会 編『鹿屋郷土誌』
高山郷土誌編さん委員会 編『高山郷土誌』
大蔵省財務総合政策研究所財政史室 編『宮崎県営鉄道及軌道、大隅鉄道買収参考書並札幌軌道及矢作水力軌道補償参考書』

関連項目

* 国鉄の特殊狭軌線

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