田之倉稔

田之倉 稔

1938年3月24日生まれ。田之倉稔（たのくら みのる）氏は、日本の演劇評論およびイタリア演劇・文化研究の分野における重要な研究者です。多角的な視点からイタリアの歴史、文化、芸術を深く掘り下げ、特に演劇と「見世物」というユニークな切り口からの研究で知られています。現在は共立女子大学の非常勤講師を務めるほか、見世物学会の会長としても活動し、見世物文化の研究振興に貢献しています。

経歴

田之倉氏は、1961年に東京外国語大学イタリア語科を卒業し、イタリア語およびイタリア文化に関する専門的な知識を修得しました。卒業後は集英社に入社し、1970年には嘱託として、さらに1971年からは同社のパリ支局長として海外での実務経験を積みました。この経験は、彼のその後の研究活動において、国際的な視野とジャーナリスティックな視点をもたらしたと考えられます。集英社での勤務を経て、静岡県立大学の教授として教鞭を執り、次世代の研究者やイタリア文化に関心を持つ人々の育成にも尽力しました。

研究活動と業績

田之倉氏の研究の中心はイタリアの演劇ですが、その射程は非常に広く、未来派をはじめとするイタリアのアヴァンギャルド演劇から、近代演劇の巨匠ルイージ・ピランデルロに至るまで、幅広い時代と潮流を網羅しています。彼の研究の大きな特徴は、演劇を単なる舞台上の出来事として捉えるだけでなく、イタリアの歴史、社会、都市構造、そして人々の生活の中に根差した文化現象として読み解こうとすることです。特に、「見世物」という独自の視点は、彼の研究を特徴づける重要な要素です。大道芸、サーカス、身体表現など、従来の演劇研究ではあまり焦点が当てられなかった領域に光を当て、それらが社会や文化といかに深く結びついているかを探求しています。見世物学会の会長という立場は、この分野における彼の先駆的かつ貢献的な研究を示すものです。

彼の知識はイタリア全般に及び、ヴェンデッタの歴史が残るコルシカ島への紀行文、バロック都市ナポリの興亡史、ファシズム体制下で「演じる」ことを強いられた人々の姿、さらにはガブリエーレ・ダヌンツィオ、林達夫、ロレンツォ・ダ・ポンテといった歴史上の人物に焦点を当てた評伝・紀行など、多岐にわたるテーマでイタリアの豊かな世界を描き出しています。これらの研究成果は、多くの示唆に富む著作として発表されています。

また、田之倉氏は研究活動と並行して、舞台芸術に関する劇評も精力的に執筆しています。長年の研究で培われた深い洞察力と、イタリア演劇・文化に根ざした独自の視点から書かれる劇評は、舞台を多角的に理解する上で貴重な手がかりを提供しています。

主な著作と受賞

田之倉氏の優れた研究業績は、幾つかの権威ある賞によって認められています。特に、イタリア近代演劇のアヴァンギャルドに関する包括的な研究である『イタリアのアヴァンギャルド 未来派からピランデルロへ』（白水社）は1981年にマルコ・ポーロ賞を受賞しました。また、見世物研究の成果として知られる『ピエロの誕生』（朝日選書）は、1986年に蘆原英了賞を受賞しています。これらの受賞は、彼の研究がアカデミズムの枠を超え、広く文化評論の分野で高い評価を受けていることを示しています。

その他の主要な著作には、『演戯都市と身体 ヨーロッパ幻視行』（晶文社）、『ファシストを演じた人びと』（青土社）、『ナポリ バロック都市の興亡』（ちくま新書）、『ダヌンツィオの楽園－戦場を夢見た詩人』（白水社）、『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』（平凡社新書）などがあります。これらの著作は、イタリアの文化、歴史、社会、そしてそこで繰り広げられる人間の営みを、演劇や見世物という視点を通して深く探求したものです。

また、美食をテーマにした共著や、イタリアの古典劇作家カルロ・ゴルドーニの作品の翻訳・編訳も手掛けており、幅広いアプローチでイタリア文化の魅力を日本に紹介しています。

田之倉稔氏は、演劇評論、イタリア文化研究、見世物研究という多岐にわたる分野において、独自の視点と深い洞察力をもって探求を続ける、日本の文化・批評界において極めて重要な存在です。

（出典として本人のホームページ「知の楽園」が存在します）

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