田村律之助

田村律之助：栃木県農業の礎を築いた「ビール麦の父」

田村律之助（たむら りつのすけ、1867年7月25日 - 1932年12月15日）は、栃木県栃木市大平町西水代出身の農学者です。栃木県におけるビール麦（二条大麦）栽培の基礎を築いた人物として、「ビール麦の父」と称えられています。

生い立ちと教育

1867年、田村律之助は下野国都賀郡西水代村の名主の家に長男として誕生しました。幼少期から祖父の厳しい躾を受け、学問の重要性を教えられました。6歳で森鴎村の塾に入門し、読み書きや人生について学びました。その後、知新館（現・栃木市立大平南小学校）に進学し、努力家として頭角を現しました。19歳で東京農林学校（現・東京大学農学部）に合格し、上京。卒業後は栃木県に戻り、栃木県農事講習所の教師として無報酬で農業を指導しました。

農業振興への貢献

田村律之助は、栃木県の農業振興に多大な貢献をしました。1892年には下野農会を結成し、幹事長に就任。これは後の下野農業協同組合（JAしもつけ）の源流となります。また、栃木県農林会（後の栃木県農会）の副会長を23年間務め、栃木県農業の発展を支えました。1902年には水代村の村長に就任するなど、地域社会にも貢献しました。1921年には、国際労働会議に農業労働使用者の代表として出席し、児童労働の禁止を訴えるなど、社会的な活動も行いました。

ビール麦栽培の普及

律之助の最大の功績は、ビール麦栽培の普及です。当時、日本のビール麦は輸入に頼っていた状況を憂慮し、国内での生産を推進しました。大日本麦酒の技師を説得し、栃木県産のビール麦でビールを製造したところ、その品質の高さが認められました。これにより、大日本麦酒と栽培契約を結び、栃木県におけるビール麦栽培を奨励しました。この結果、栃木県はビール麦の生産量で全国トップクラスとなり、その基礎を築きました。ビール麦の栽培は、かんぴょうの敷き藁としても利用され、農家の収入増にも貢献しました。

その他の功績

律之助は、ビール麦栽培以外にも、米や麦の奨励品種の選定・普及、養蚕の振興、肥料・堆肥の普及、農業経営・農会経営の改善など、多岐にわたる分野で活躍しました。特に、肥料の研究や堆肥作りの指導は、農作物の収量増加に大きく貢献しました。

晩年と死

律之助は、栃木県農会長を退いた後も、顧問や評議員として農業振興に尽力しました。1932年、65歳でその生涯を閉じました。その功績は、「明治百年記念栃木県農業先覚者顕彰」など、多くの顕彰を通じて、今も語り継がれています。

律之助の遺産

田村律之助の功績は、単にビール麦栽培の普及に留まらず、栃木県の農業全体の発展に大きく寄与しました。彼の先見の明と情熱は、現代の農業にも大きな影響を与えています。現在でも、律之助の功績を称える「田村律之助顕彰会」が設立され、ビール麦栽培体験やクラフトビールの醸造・販売を通じて、その遺志を伝えています。

年表

1867年：下野国都賀郡西水代村に生まれる
1872年：鴎村学舎で学ぶ
1873年：知新館に入学
1886年：東京農林学校に進学
1892年：東京農林学校卒業、栃木県農事講習所教師に着任
1892年：下野農会を設立
1895年：栃木県農林会設立、副会長に就任
1899年：栃木県農会設立、副会長に就任
1902年：水代村村長に就任
1921年：国際労働会議に出席
1923年：民間人初の栃木県農会会長に就任
1932年：死去

受賞・受章歴

1907年：大日本農会緑白綬有功章、農事功労者（農商務大臣表彰）、大日本農会三等有功章
1914年：大日本農会紅白綬有功章
1932年：従六位叙位
1968年：明治百年記念栃木県農業先覚者顕彰

御召出

1907年：明治天皇に農業事情について御下問を受ける
1910年：皇太子（大正天皇）と面会
1918年：大正天皇に地方の事情について御下問を受ける
1926年：宮中御宴に招待を受ける

業績

ビール麦栽培の普及・奨励
米・麦の奨励品種の選定・普及
蚕業の奨励
畜産の改良
堆肥製造の指導
農会運営の整備改善
肥料・種子・農薬の共同購入
麦・蔬菜類の共同販売

ビール麦栽培の詳細

律之助は、国内でのビール麦需要に応えるため、栃木県での栽培を推進しました。1906年に大日本麦酒と契約を結び、ゴールデンメロン種の栽培を奨励しました。その結果、栃木県のビール麦生産量は飛躍的に増加し、全国トップクラスとなりました。特に、1918年には県内7郡31耕作組合が15,000石を超える契約量を達成し、その後も長らく日本一の生産量を誇りました。また、ビール麦のわらが、かんぴょう栽培に適している点も、農家に歓迎されました。

米・麦の奨励品種の選定

1902年、律之助は米・麦の奨励品種の統一を図り、1911年から1913年にかけて奨励品種を決定しました。ビール麦については、1915年に「栃木ゴールデンメロン1号」を奨励品種としました。この品種は、日本全国で広く栽培されるようになり、その後のビール麦栽培の基盤となりました。

養蚕の振興

養蚕の振興にも力を注ぎ、1899年に蚕病検疫委員会を設置し、蚕病対策に取り組みました。1900年から1904年にかけては、養蚕伝習所や農事巡回教師を設置し、養蚕技術の向上を図りました。

肥料・堆肥の普及

1898年より肥料研究展覧会や肥料鑑定講習会を開催し、肥料知識の普及に努めました。1904年からは堆肥舎の建設を推進し、堆肥作りを実地指導しました。これらの取り組みは、農作物の品質向上と収量増加に大きく貢献しました。

農業経営・農会経営の改善

農業経営の重要性を認識し、1908年に農業経営方法の共進会を開催しました。農会経営では、1907年に技術員と書記を常置し、1915年からは優良経営の町村農会を表彰し、経営改善を促しました。

著書

『京都府農事講習所講義録 第1期』（1894年）
『米の經濟陸稲栽培法』（1913年）

親族

田村家は代々名主を務めた家系で、家紋は轡（くつわ）です。祖父は律之助を厳しく育て、尊皇攘夷思想を抱いていました。長男の恭助は、北海道帝国大学農学部を卒業後、大日本麦酒に入社しました。

顕彰

太平山には律之助の石像が設置されています。これは1951年に農業団体やビール会社が建立したものです。また、律之助の生誕150年を記念して、「田村律之助顕彰会」が発足し、様々な顕彰活動を行っています。

まとめ

田村律之助は、その生涯を栃木県の農業発展に捧げた偉大な農学者でした。彼の功績は、現代の農業にも大きな影響を与え続けています。律之助の先見の明と情熱を、私たちは決して忘れてはなりません。

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