甲州 (ブドウ)

甲州種：日本を代表する白ぶどう

甲州種は、山梨県（旧甲斐国）に古くから伝わる白ぶどうの品種です。生食だけでなく、ワインの醸造にも用いられる、希少で貴重な品種として知られています。その歴史は古く、複数の伝承が語り継がれています。

歴史と伝承

甲州種の起源はヨーロッパであると考えられていますが、日本への伝来については諸説あります。有力な説として、1186年（文治2年）に雨宮勘解由という人物が珍しい蔓草を発見し、栽培を始めたという説と、奈良時代に大僧行基がぶどうの木を発見したという説があります。

江戸時代初期には、甲斐の医師である永田徳本が、現在のぶどう棚栽培法を考案したと伝えられています。戦国時代には、キリスト教宣教師の日記に日本のぶどう栽培に関する記述が残っていますが、考古学的な証拠は限定的です。甲府盆地西部の大師東丹保遺跡からは中世の野生種ぶどうが出土していますが、栽培種ぶどうの移入経緯は未解明です。

しかし、江戸時代には甲州八珍果の一つとして、ぶどうは甲府盆地で盛んに栽培され、勝沼地域が主要産地として知られていました。荻生徂徠の『甲州紀行』や『甲斐国志』といった文献にも勝沼のぶどう生産が記述されており、松尾芭蕉も勝沼のぶどうを詠んだ句を残しています。江戸時代後期には栽培地域が拡大し、明治時代には殖産興業政策によって産業としての発展を遂げました。

近年では、ヨーロッパ式の栽培法や醸造法の導入により、甲州ワインの品質向上に努められており、2004年に始まった「甲州ワインプロジェクト」では、フランスの醸造専門家ドゥニ・デュブルデュー氏による指導の下、高い評価を得るワインが誕生しました。2010年には、日本固有のぶどう品種として初めて国際ぶどう・ぶどう酒機構（OIV）に品種登録され、EUへの輸出が可能となりました。

性質と研究

甲州種は、房はやや長く、果実は中くらい、藤色または明るいえび茶色の「灰色ぶどう」と呼ばれる色合いです。果粒は大きく、酸味や果実味に際立った個性はないとされています。果皮がピンク色であるため、香りの成分を抽出する際には特有のえぐみが課題となります。そのため、甘口のワインが多く生産されてきました。しかし近年は、甲州種の新たな可能性を探る研究開発が進められています。

2004年のカリフォルニア大学デービス校による分析で、甲州種が欧州種（V. vinifera）の交配品種であることが判明しました。酒類総合研究所の研究では、中国の「竜眼」などの東洋系欧州種のグループに属し、西洋系品種とは異なる系統であることも明らかになっています。2013年のDNA解析では、ヨーロッパブドウと中国の野生ブドウの交雑種が、さらにヨーロッパブドウと交配した可能性が高いことが示唆されました。東京農業大学と山梨大学の研究グループは、甲州種のゲノム解読を完了しています。

利用

明治時代以前は主に生食されていましたが、1879年（明治12年）にワイン醸造が開始されて以降、ワイン用のぶどうとしても栽培されるようになりました。現在では、甲州種を使用したワインは、日本を代表するワインとして、国内外で高い評価を得ています。その独特の風味と繊細な味わいは、日本料理との相性も抜群です。

まとめ

甲州種は、歴史と伝統を誇る日本固有のぶどう品種です。その歴史、性質、そして研究開発の成果を踏まえることで、甲州種の持つ可能性と将来性について改めて認識することができます。今後ますますの研究開発と、生産者の努力によって、甲州ワインは世界的なワインとして、その地位を確固たるものにしていくことでしょう。

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