異常性愛記録 ハレンチ

映画『異常性愛記録 ハレンチ』について

『異常性愛記録 ハレンチ』は、1969年に公開された東映のR-18指定の日本映画です。石井輝男監督による、東映の「異常性愛路線」を代表する作品の一つとして知られています。

概要

本作は、執拗かつ異常な性行為をヒロインに強いる男と、彼に追い詰められていくヒロインの攻防を描いた作品です。回想シーンが多用されているため、時系列が把握しにくいという難点がありますが、ストーカー行為を一般化する以前に描いた作品として、『恐怖のメロディ』(1971年)と同様に評価されています。

監督の石井輝男が、京都の知り合いから聞いた実話を基に制作したとされています。また、公開当時に人気を集めていたニューハーフのスターたちを全国から集め、長回しのダンスシーンを撮影したことも話題になりました。映画のタイトルとなっている「ハレンチ」は、当時流行していた言葉に由来しています。

ストーリー

物語の舞台は京都・木屋町。バー「ノン」のママである典子(橘ますみ)は、染織会社の社長・深畑(若杉英二)と腐れ縁の関係にありました。深畑は典子に対し、友人の前での性行為を強いるなど、異常な性行為を繰り返していました。さらに、他の女性とは性行為ができないと嘘をつきながら、実際には他のホステスやゲイボーイともアブノーマルな関係を持っていました。

深畑は「ノンコ、愛してるんだよ～ん」「しあわせ?」が口癖で、母性をくすぐるような幼児性を見せる一方で、暴力や猜疑心で典子を支配していました。典子が別れを切り出すと、深畑はだんまりを決め込み、典子の母親にも仏頂面で接します。しかし、母親が帰ると、一転して泣き落としにかかるという、わがままな人物でした。

典子は深畑の子供を妊娠しますが、中絶手術に必要な書類に深畑は実印を押すことを拒否します。結局、典子の母親が保証人となり、中絶手術を受けることになります。周囲は深畑が典子のパトロンのように見ていましたが、実際には経済的な援助は一切なく、店のツケすら払おうとしませんでした。典子のマンションも彼女自身が購入したものでした。深畑は重要な局面になると逃げ出す男でしたが、深畑の家族は典子が深畑をたぶらかしていると思い込んでいました。典子は心身ともに疲弊していきます。

そんな中、典子は建築家の吉岡(吉田輝雄)と出会います。吉岡は深畑とは異なり、典子に優しく誠実でした。湖畔へのデートで、典子は深畑との関係を絶ち、吉岡と一緒になる決意をします。深畑の徘徊を恐れ、典子は吉岡と新しい生活を始めます。しかし、神戸への出張から帰ってきた深畑は、それを許しませんでした。さらに、深畑は典子に性病を感染させてしまいます。一度は別れを決意した典子でしたが、深畑の狡猾な態度に戸惑い、別れを撤回してしまいます。吉岡に迷惑がかかると思った典子は、吉岡の自宅マンションに置手紙を残して、深畑から逃げようとします。

しかし、吉岡のマンションの前には、ナイフを持った深畑が待ち構えていました。深畑にナイフを突きつけられた典子は、帰宅した吉岡を呼び出します。家族に見放された深畑は、吉岡を刺殺しようとしていました。典子は深畑に「ハレンチよ!」と叫びます。雷雨の中、吉岡と深畑は格闘し、ナイフに落雷した深畑は感電死します。マンションの廊下から転落し、黒焦げの焼死体となった深畑。雨の中、典子と吉岡は抱き合います。

キャスト

典子：橘ますみ
深畑：若杉英二
吉岡：吉田輝雄
ニャン子：葵三津子
里江：丹下キヨ子
冬子：賀川雪絵
梅子：南風夕子
時子：花柳幻舟
松子：有沢正子
菊江：宮城千賀子
津田：林真一郎
寺内：小池朝雄
酒屋：丸岡奨詞
タクシー運転手：上方柳太
由紀：青山ジミー
産婦人科の医師：沢彰謙
とり子：片山由美子
東京ゲイ・ボーイズ

スタッフ

監督：石井輝男
企画：岡田茂、天尾完次
脚本：石井輝男
撮影：わし尾元也
美術：鈴木孝俊
照明：和多田弘
音楽：八木正生
美術：荒川輝彦
助監督：篠塚正秀
協力：ユタニ家具センター

制作の背景

1968年末に岡田茂東映映画本部長が発表した「性愛路線」の第二弾として制作されました。当初のタイトルは『異常性愛記録・失神』でしたが、大映作品との競合を避けるためか、当時の流行語「ハレンチ」をタイトルに採用したと考えられています。

キャスティングの裏話

当初、カルーセル麻紀が主演を務める予定でしたが、脚本の都合により脇役に変更されました。しかし、最終的には降板したとされています。石井監督は、本作を「封切りが異常に急いでいて、大急ぎで書いた」と語っています。

深畑役の若杉英二は、石井監督のデビュー作の主演候補でしたが、本作が石井作品への本格的な初出演となりました。吉岡役の吉田輝雄は、石井作品の常連であり、「異常性愛路線」作品では「正常」な立場を演じることが多かったようです。

典子役の橘ますみは、ヌードシーンについて、「女優として割り切っているが、一人の女性としては恥ずかしい」と語っています。しかし、ギャラが大幅にアップしたことについては満足しているようです。

「異常性愛」という言葉

本作のタイトルに「異常性愛」という言葉が用いられたことから、石井輝男監督の代名詞とも言える「異常性愛路線」は、本作が語源とされています。しかし、「異常性愛」という言葉自体は、本作以前から医学用語として存在していました。

興行成績

興行収入は1億5000万円と、前作から大幅に落ち込みました。

参考文献

石井輝男・福間健二『石井輝男映画魂』ワイズ出版、1992年。
杉作J太郎・植地毅『東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム』徳間書店、1999年。

外部リンク

異常性愛記録 ハレンチ - 日本映画データベース
異常性愛記録 ハレンチ - allcinema
異常性愛記録 ハレンチ - KINENOTE
異常性愛記録 ハレンチ - IMDb（英語）

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