癸亥丸

癸亥丸（きがいまる）

癸亥丸は、幕末において長州藩が保有していた西洋式軍艦です。この艦は、下関戦争においてアメリカ海軍と激しく交戦し、大破の後に復旧されると、再び長州征討で幕府軍に立ち向かったという歴史的な背景がある船です。

概要

元々、癸亥丸は「ランリック（Lanrick）」という名称で、1843年にイギリスのリバプール近郊マージイで建造されました。当初はアヘン貿易のためにインドや中国で使用されていました。この艦は、長州藩が攘夷を掲げて軍備増強を図る中で1863年3月18日に、御用商人の佐藤貞次郎を介して購入されました。取得価格は2万ドルで、購入した年の干支に由来して「癸亥丸」と改名されました。

癸亥丸は、2本マストの横帆と縦帆を持つ二檣ブリッグに分類される木造の帆船で、283トンの排水量を持ち、長州藩では10門の大砲（18斤砲2門・9斤砲8門）を装備し、実質的に軍艦として運用されたのです。

実戦の歴史

癸亥丸が実戦に参加したのは文久3年（1863年）5月11日で、長州藩は攘夷を実行に移しました。この日、癸亥丸ともう1隻の庚申丸が出撃し、潮待ちをしていたアメリカ商船「ペンブローク」を砲撃しました。この攻撃では、合計で12発の砲弾を発射し、3発がペンブロークに命中しましたが、逃げるペンブロークを追うも捕らえることはできませんでした。

続いて、5月23日にはフランスの通報艦「キャンシャン」の攻撃があり、長州藩の砲台が海峡を通過しようとするキャンシャンを砲撃しました。この際、癸亥丸自身はキャンシャンの小艇を捕獲しましたが、キャンシャンは逃げおおせました。そして、5月26日にはオランダ艦「メデューサ」を攻撃し、癸亥丸もここで交戦し、艦体に被弾を受けました。

しかし、6月1日にはアメリカ艦「ワイオミング」が下関港に現れ、癸亥丸を含む艦船を攻撃しました。この戦闘において、庚申丸と壬戌丸が撃沈され、癸亥丸も大きな損害を受けました。この戦闘では、癸亥丸または庚申丸の砲弾がワイオミングに命中し、3名の戦死者と4名の負傷者を出すことになりましたが、味方の壬戌丸に誤射をしてしまうという不手際もありました。

下関戦争を経た後、癸亥丸は復旧工事を受けて再び就役。その後、第二次長州征討では慶応2年6月17日に「丙寅丸」、「丙辰丸」と共に田ノ浦を襲撃し、その存在感を示しました。また、戊辰戦争の際にも、鳥羽・伏見の戦いの前に長州藩兵の輸送等で活躍しました。

参考文献

• - 豊田泰 『開国と攘夷―日本の対外戦争幕末』 文芸社、2006年。
• - 野口武彦 『長州戦争―幕府瓦解への岐路』 中央公論社〈中公新書〉、2006年。
• - 古川薫 『幕末長州藩の攘夷戦争―欧米連合艦隊の来襲』 中央公論社〈中公新書〉、1996年。

このように癸亥丸は、幕末の日本において軍艦として重要な役割を果たし、激しい戦闘にも関与しました。

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