白浪物

白浪物（しらなみ もの）について

白浪物とは、歌舞伎における特定の演目群を指し、主に盗賊を主人公とした物語です。このジャンルは、特に二代目河竹新七（後の黙阿弥）の作品が多く、彼の手によって数多くの演目が創作されました。

成立の背景

江戸時代の中頃、特にペリー来航以降の嘉永末年の江戸は、幕府の権威が揺らぎ、社会情勢も不安定でした。流浪の武士や盗賊が横行し、庶民の不安が募る状況が広がっていました。この時期に、講釈師の二代目松林伯圓が盗賊をテーマにした講談を盛んに語るようになり、これが徐々に人気を博しました。

二代目河竹新七は、この人気を受けて講談を舞台化し、歌舞伎の演目として展開しました。彼の盟友である四代目市川小團次が主役として舞台に立つことで、この白浪物は次第に確固たる地位を築くことになります。安政年間に入ると、新七は数々の白浪物を創作し、小團次がそれを演じることで、彼自身が「白浪役者」としての名声を得るに至ります。小團次の場合は、さらに「泥棒小團次」という呼称まで生まれ、時にはこのあだ名に困惑する場面があったようです。

代表的な作品

白浪物には多くの名作がありますが、いずれも河竹新七の筆による作品です。これらの作品は特に庶民に親しまれ、上演され続けています。

白浪物の特徴

白浪物の主人公は、一般的な大盗賊ではなく、平凡な市井の男女であることが多いです。彼らは様々な理由により盗賊と化し、義理や人情に翻弄される結果、最終的には自らを滅ぼすか、改心して善行に努めるという設定が多いです。特に黙阿弥の作品では、悪役に典型的な頑固さが見られず、物語は一般的に勧善懲悪の形式をとります。このため、ドラマとしての迫力には欠けることがあるものの、幕末の時代背景や社会の空気感を伝える貴重な資料でもあります。

名称の由来

「白浪」という名前は、中国の言葉「白波賊」（はくはぞく）に由来します。この語は、後漢末の黄巾の乱の際に、張角の残党が河西の白波谷に立てこもったことから名付けられました。この表現がやがて盗賊という意味に定着しました。日本においては、近世に「白波」の漢字が訓読みされ、最終的に「白浪」として義賊を指す言葉として広まりました。

白浪物は、歌舞伎の中でも特に興味深いジャンルの一つであり、社会の不安定さや人間の根源的な感情が描かれています。

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