百済河成

百済河成（くだら の かわなり）

百済河成は、平安時代初期に活躍した貴族であり、画家としても名を馳せた人物です。出自は百済の王族に連なり、余時善の子とされています。官位は従五位下・安芸介にまで昇りました。

生涯

808年に左近衛に任じられた後、その卓越した画才が認められ宮中に召し出されました。823年には美作権少目に任命され、その後も備中介、播磨介、安芸介などの地方官を歴任しました。840年には兄と共に百済朝臣の姓を賜り、845年には内位の従五位下に叙されています。853年に72歳で亡くなるまで、その才能を様々な分野で発揮しました。

人物と業績

河成は、個人名が残る最初の画家として知られ、平安時代の世俗画の出発点とされています。彼の描く肖像画は本人そっくりであり、山川草木はまるで生きているかのように精妙であったと伝えられています。しかし、残念ながら彼の絵画作品は現存していません。

また、庭園造営にも才能を発揮し、嵯峨院の造営では御堂の壁画を描き、滝殿の石組みも手がけました。この滝殿は「名古曽滝」と呼ばれましたが、平安時代中期に水が枯れ、石組みだけが残りました。その後、1922年に「大沢池 附 名古曽の滝跡」として国の名勝に指定され、1994年からの発掘調査を経て、1999年に中世の遣水が復元されました。

さらに、河成は武芸にも長け、強弓を引くことができたとされています。

逸話

河成が宮中に仕えていた頃、ある者が従者を呼ぶように命じられたものの、従者の顔を知りませんでした。そこで河成が紙にその従者の似顔絵を描いたところ、その者はすぐに従者を連れてくることができたという逸話が残っています。このエピソードからも、彼の画才が非常に優れていたことが窺えます。

飛騨の工との逸話

平安京遷都の際、飛騨の工と呼ばれた卓越した工人がいました。飛騨の工が造営した豊楽院は、趣深く美しいものでした。河成と飛騨の工は互いに技術を競い合う仲でした。ある時、飛騨の工は一間四面の堂を建て、河成を招いて壁に絵を描いてほしいと頼みました。河成が工の家に行くと、四方に扉のある小さな堂があり、工に促されて扉から入ろうとすると、扉が閉じてしまい、なかなか堂の中に入ることができませんでした。河成が諦めて帰宅すると、数日後、河成は工を自分の家に招きました。河成の家を訪れた工は、部屋の遣戸を開けると、そこに描かれていた腐敗した死体の絵に驚き、飛び出してしまいました。実はそれは障子に描かれた絵であり、それを見た河成は大笑いしたという、ユーモラスな逸話も残っています。

官歴

以下は『六国史』に基づく百済河成の官歴です。

808年：左近衛
823年：美作権少目
833年：外従五位下
時期不明：備中介
840年：百済朝臣に改姓
時期不明：播磨介
845年：従五位下（内位）
846年：安芸介
853年：卒去（散位従五位下）

系譜

父：余時善
母：不詳
妻：不詳
男子：百済岑人

まとめ

百済河成は、平安時代初期に画家として、また貴族として活躍した人物です。彼の描いた絵は非常に精巧で、その画力は多くの伝説を生み出しました。また、庭園造営にも携わるなど多才な人物であったことが伺えます。彼の業績は、日本の美術史において重要な位置を占めています。

参考文献

森田悌『続日本後紀』（上下巻）講談社学術文庫、2010年
高野澄『京都 魅惑の町名 由来と謎をたずね歩く』PHP研究所、2009年
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年
『大日本史』
『本朝画史』

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