皇帝祭祀

皇帝祭祀：中国における国家祭祀の変遷

皇帝祭祀は、中国の皇帝が天に対して行った重要な国家祭祀であり、その起源は秦の始皇帝にまで遡ります。この祭祀を通じて、皇帝は単なる政治的な支配者であるだけでなく、祭祀王としての側面も持ち合わせ、天との繋がりを民に示すことで、その権威を確立しました。

皇帝祭祀の定義と特徴

皇帝祭祀は、周代以来の「天子」の概念と、秦の始皇帝が確立した「皇帝」の概念が融合した祭祀制度です。史書には「郊廟」として記録され、皇帝の祖先を祀る宗廟での祭祀と、都の郊外で行われる郊祀の二つに大別されます。郊祀はさらに、天の主宰神を祀る南郊と、地の自然神を祀る北郊に分けられます。

唐代には、皇帝祭祀の体系が整備され、『大唐開元礼』としてまとめられました。この書物は、宋代以降、国家儀礼の規範として重んじられ、国家祭祀を大・中・小の規模に分類しました。皇帝祭祀は、漢民族の王朝だけでなく、異民族王朝である北朝、遼、金、元、清などでも行われ、皇帝制度と共に継続されました。また、日本の天皇が行う宮中祭祀（新嘗祭など）にも影響を与えたと考えられています。

歴史的展開

皇帝祭祀の起源には諸説ありますが、一般的には、楚や蜀などで行われていた自然神への祭祀である社禝と、周で行われていた祖先神への祭祀である宗廟が組み合わされたものと考えられています。これに、秦の始皇帝が行った封禅に由来する郊天が加わり、天を祀る南郊、地神を祀る北郊、祖先を祀る宗廟という構成が確立しました。この構成は「郊廟」と呼ばれ、南方の長江文明と北方の黄河文明が融合したことを象徴しており、秦漢帝国による中国統一を祭祀の面からも具現化していました。

郊祀制度の変遷

前漢時代には、天の祭祀は冬至に南郊で、地の祭祀は夏至に北郊で行われていました。南郊が重視されたため、「郊祀」という言葉は南郊のみを指すこともありました。後漢時代には、南郊は正月に、北郊は10月に行われるようになり、皇帝が直接行うのではなく、臣下が代理を務める「有司摂事」という形式が用いられました。

南北朝時代には、北朝で鄭玄、南朝で王粛の礼説が用いられ、北朝では南郊が有司摂事で行われることが多かったのに対し、南朝では皇帝が親祀するようになりました。唐代には、定期的な祭祀はほとんど有司摂事で行われ、特別な祭祀のみ皇帝が親祀するという形式が確立しました。宋代には、3年に1度皇帝が天を親祀する「三年一郊」の制が行われましたが、通常の郊祀は有司摂事でした。遼、金、元などの異民族王朝でも郊祀は行われましたが、独自の祀天儀礼がより盛んでした。

明代には、毎年正月南郊で天地を合祀する「一年一郊」の親祀が励行されましたが、1531年の礼制改革以降は、郊祀は有司摂事で行われるようになりました。清代になると、明代とほぼ変わらない頻度で郊祀が行われましたが、原則として皇帝親祀で熱心に行われました。

宗廟制度の変遷

宗廟は、祖先の位牌を安置する場所であり、春秋時代から王侯の祭祀の場として重要でした。前漢時代に儒教が国教とされると、儒教の身分制度に基づいて宗廟に祀ることができる祖先の数が制限されたため、皇帝の宗廟を巡って政治的な論争が起こりました。儒教では、「天子七廟」として、皇帝は七代以上の祖先を祀ることができました。皇帝の宗廟は、天命を受けた祖先を中心に祀られ、特に王朝の初代皇帝は「太祖」として、太廟に祀られました。

前漢時代には、宗廟は皇帝の陵墓ごと、また諸侯の郡国ごとに設置されていましたが、後漢時代には儒家の礼説に基づいて国都の宗廟のみに限定されました。これに伴い、皇帝祭祀の中で皇帝陵を祀る陵祭の比重は低下しました。

即位儀礼との関連

宗廟制度は、皇帝の即位儀礼と密接に関わっていました。前漢中期には、前皇帝が崩御した際に、その柩の前で即位する「柩前即位」が行われ、即位後には太廟に謁する「謁廟」の礼が行われました。唐代後半からは、皇帝即位直後の郊祀を親祀する慣例ができあがり、同時に大赦・改元が行われるようになりました。このことは、即位儀礼の重点が宗廟から郊祀へと移行したことを示しており、郊祀の可視性の高さが重視されるようになったことを意味します。明清時代の南郊址である天壇は現存しており、当時の様子を今に伝えています。

天皇の即位儀礼「大嘗祭」との関連性

日本の天皇の即位儀礼である大嘗祭では、北斗と南斗に対して祭祀が行われます。北斗は天帝と同一視される太一（北極星）の周囲を回る天帝の車であり、南斗は祖先に供物を捧げる升と観念されていました。このことは、天の祭祀と祖先への祭祀という形で成り立つ中国皇帝の即位儀礼と共通しています。ただし、北斗に対する取り扱いについては、中国皇帝の祭服と天皇の祭服とで異なる意匠が見られ、両者の思想構造が微妙に異なっていたことを示唆しています。

参考文献

溝口雄三ら編『中国思想文化事典』東京大学出版会、2001年
金子修一著『古代中国と皇帝祭祀』汲古書院、2001年
吉野裕子著『大嘗祭 天皇即位式の構造』弘文堂、1987年

関連項目

祭天

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