監査の歴史

監査は、組織や個人の経済活動を監視し、その正確性や適法性を検証する重要なプロセスです。本稿では、古代から現代に至る監査の歴史を辿り、その進化と発展を詳細に解説します。

古代の監査

広義の監査は、古代から存在していました。特に国家の公的部門においては、物資の管理を監督・監視する制度が設けられ、役人や君主自身が監査を行っていました。

- 古代エジプト: 紀元前4000年頃には、王家に仕える役人が経済活動を行い、倉庫の物資の監査は書記が担当していました。
- バビロニア: 紀元前18世紀のハンムラビ法典には、契約や会計、商取引の監査について記述があります。
- 古代中国: 紀元前12世紀の西周には、官僚の不正防止のために宰夫という官僚が置かれました。春秋戦国時代には、皇帝が地方政府の財政報告を審査する上計という制度が作られました。
- 古代日本: 7世紀以降の律令制時代には、租庸調という税が定められ、財政責任者の太政官は四度公文と呼ばれる文書で各地から報告を受け、勘会で精査しました。
- 古代ギリシャ: ポリス時代のアテナイでは、監査官が官僚や裁判官の会計を監査しました。

中世・近世の監査

中世から近世にかけて、経済活動の拡大とともに監査の重要性が増しました。財産の委託・受諾関係をもとにした会計として代理人会計が行われるようになり、民間の商業活動の増加に伴って監査も増加しました。

- イスラーム世界: ワクフと呼ばれる寄進制度があり、寄進されたワクフ財は公共目的にあてられて管財人が管理し、監査役が不正を防止しました。
- ヨーロッパ: 13世紀には大蔵省に監査官が置かれ、議会が国家財政を確認する体制となりました。
- イタリア: 13世紀には職業会計士が営利事業の会計と監査に関わるようになり、1581年にはヴェネツィア共和国で世界初の職業会計士協会が設立されました。

18世紀・19世紀の監査

産業革命以降、企業数が増加し、株式会社が大規模化するにつれて、監査制度も整備されました。

- ドイツ: プロシア普通国法（1794年）によって監査に関する規定が定められ、普通ドイツ商法典（1861年）で監査役会が規定されました。
- フランス: 18世紀初頭のミシシッピ計画と南海泡沫事件を契機に監査制度が見直され、1860年代の商事会社法によって株式会社の会計と監査が規定されました。
- イギリス: 南海泡沫事件（1720年）を契機に株式会社の制限が続きましたが、会社登記法（1844年）で会社設立が認められ、会社法（1862年）で会社法制が整備されました。
- アメリカ: 南北戦争後の1880年代に、イギリス資本を中心にアメリカへの投資が進み、イギリスから職業会計士が渡航して監査業務を行いました。

20世紀の監査

20世紀に入ると、公認会計士による監査が普及しました。イギリスでは、シティ・オブ・グラスゴー銀行の破綻を契機に監査人の独立性が問題視され、法改正が行われました。アメリカでは、1929年の大恐慌を契機に証券法（1933年）や証券取引所法（1934年）が施行され、証券取引委員会（SEC）によって公認会計士の法的監査が確立しました。日本では、1948年に公認会計士法が公布され、財務諸表監査を資格独占業務とする公認会計士が誕生しました。

21世紀の監査

21世紀に入ると、エンロン事件やワールドコム事件などの会計不正事件が多発し、監査の信頼性が揺らぎました。アメリカではSOX法が制定され、日本では金融商品取引法により内部統制報告制度が導入されました。また、世界金融危機を契機に、国際監査基準の見直しが進められました。近年では、IT技術の発展に伴い、IT監査の重要性が増しています。

監査の歴史は、社会経済の変化とともに進化してきました。今後も、監査は経済活動の健全性を維持するために、重要な役割を果たし続けるでしょう。

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